コロナ禍にあって入学者数を前年比1.5倍に伸ばしたスクールがあります。『デジタルハリウッドSTUDIO』、デジタルハリウッド株式会社が運営するクリエイター養成スクールです。4度の緊急事態宣言下でも学びを止めることなく提供し続け、受講者増、さらにはeラーニング利用率も2.5倍に伸ばした背景にはどのような取り組みがあったのでしょうか。
インタビューでは同社が実践する高品質なハイブリッドラーニングの詳細と共に、これからのオンライン教育を成功させる上で重要となるヒントについてもお聞きすることができました。
- スクール事業部 副部長
- 原田紀子様
『デジタルハリウッドSTUDIO』
“今までにないラーニングスタジオ”をコンセプトにした社会人向けクリエイター養成スクール。「好きなことを、好きな時間で、好きな場所で、自分らしく学ぶ」ための専用学習システム『Any』を軸に、対面式サポート等充実の学習環境を揃えている。1994年の設立以来築きあげた教育ノウハウとメソッドをパッケージングし、全国の業務提携企業にライセンス方式で提供、出店地域に特化したSTUDIOを全国に33拠点展開中(2022年2月現在)。
デジタルハリウッドSTUDIOにおけるeラーニング活用の歴史
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- 2012年 ハイブリッドラーニング提供開始
『デジタルハリウッドSTUDIO』のサービス開始当初から反転学習型のハイブリッドラーニングを提供。
- 動画教材を使ったインプット学習にはLMS『KnowledgeDeliver』を活用。
- 2019年 コロナ直前にLMSのアップデートを完了
- 学習進捗、課題提出状況を受講者自身が確認できる「マイページ機能」。
- ストーリー設計に基づき受講者にフォローメールを自動送信できる「自動メンタリング機能」など。
- 2020年 コロナ禍に「入学者数1.5倍」「eラーニング利用率2.5倍」を実現
- 受講者層がさらに多様化。
- 今後は“受講者が挫折しない仕組み”作りを目指していきたい。
いかにして「入学者増」「eラーニング利用率アップ」を実現できたのか
はじめに、『デジタルハリウッドSTUDIO』で実践されているハイブリッドラーニングについてご紹介いただけますか。
原田様:基本的なスキルについては動画教材を見て学び、リアルな教室では講師から直接学ぶことができる反転学習型の教育スタイルです。
24時間いつでもどこでも学べるオリジナルの映像教材がありますので、クリエイティブツールの使い方などのインプット学習を自分のペースででき、わからないところは何度でも見直すことができます。そして、実際の教室では現役クリエイター講師が先端的なカリキュラムを直接指導し、実践力を磨いていきます。
そんな中で2020年、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが起こります。当時はどんな状況でしたか。
原田様:1回目の緊急事態宣言が発令されたときは、本当にこれからどうなるんだろうという不安でいっぱいでした。ですが、結果的に2020年度のSTUDIO入学者が前年比1.5倍に増加しました。
あらゆる経済活動が停滞してしまったコロナ禍になぜそのようなことが実現できたのでしょうか。
原田様:ひと言でいいますと、以前から行っていたハイブリッドラーニングをさらに進化させました。
まず、軸となる動画教材を使ったインプット学習ですが、じつはLMSのアップデートをコロナ直前に実施していたんです。内容的にはマイページ機能を充実させ、動画の視聴進捗、課題の提出状況などの確認が受講者側からも可能となりました。加えて、視聴が遅れていたり学習につまずきが見られる受講生には自動的にフォローメールが届く自動メンタリング機能をデジタル・ナレッジさんと一緒にストーリー設計して搭載、管理機能の細かいカスタマイズもしていただきました。
絶妙なタイミングでLMSをアップデートされていたんですね。
原田様:やっておいてよかった!と思いましたね(笑)。デジタル・ナレッジさんのLMS『KnowledgeDeliver』、うちでの名称は『Any』と言いますが、これが功を奏したのか受講生1人当たりのAny利用率もコロナ前の2.5倍に増加したんです。
eラーニングの受講率を上げることはハイブリッドラーニングを成功させる上で重要なポイントですが、ここが難しいと悩まれている教育事業者さんもいらっしゃると思います。
原田様:自分で進んで学習できる方は、マイページを見れば「本当ならここまで進んでいないといけないのに自分はまだここか」と自身の立ち位置を把握でき、より計画的に学習できます。そうでない方には、自動メンタリング機能や管理者が学習履歴を見て声かけを行うことで、「やらなきゃ」という気持ちを後押しできたのかなと思います。コロナ以降、受講生の学習にかける意欲がすごく大きく変わったというのは実感していますね。
一方で、リアルな授業についてはどんな対応をされましたか?
原田様:対面指導に関してはslackなどでの提供もあわせて行っていましたので、割とスムーズにオンラインでの対応に移行できました。また、コロナ前から実施している特別公開授業をライブ配信することで「全国で共通の授業を受けられる」という強みに変えました。
特別公開授業とはどういったものですか。
原田様:国内外の著名なゲストや一流クリエイターによる特別講義です。以前はSTUDIOごとに開催していましたが、ライブ配信に切り替えることで地方の方にも第一線の先生方の授業を受講していただけるようになりました。コロナ後すぐ、2020年5月には全国配信をスタートしていましたので、それも受講生の増加につながったのかなと思います。
ハリウッドやシリコンバレーで働いている卒業生の特別授業も、コロナ前は実際に来てもらっていましたが、こちらもオンライン化することでより開催しやすくなったこともメリットでした。
オンラインの強みを最大化し、高品質な学びを提供し続けたことが「受講者の増加」や「eラーニング利用率の向上」につながったんですね。
原田様:これまで4度の緊急事態宣言が出ていますが、一度も学びを止めていません。スクールだけでなく、大学・大学院を含む全事業において学びを提供し続け、目標を達成することができました。これが実現できたのはやはり早くからハイブリッドラーニングに取り組んでいたからだと思います。リアルな学習のみでやっていたら学びを止めるという判断になっていたかもしれません。
ハイブリッドラーニングの取り組みは2011年から。「メリットしかない」と自信をもった出来事と成功の秘訣
御社ではいつ頃からeラーニングを導入されていましたか。
原田様:最初のeラーニング導入は2005年に開校したオンラインスクールです。ライブ配信型の授業とオンデマンド型の動画教材を組み合わせて提供を始めました。この時からすでにオンデマンドの部分をデジタル・ナレッジさんのLMSを活用して提供させていただいておりました。
その後、2011年にはデジタルハリウッド大学で「対面授業+動画教材による個別学習」のハイブリッドラーニングをスタート、2012年には今回の『デジタルハリウッドSTUDIO』をスタート、全国展開を進めてきました。
相当早くからハイブリッドラーニングというものを始めていらっしゃったんですね。
原田様:そうですね。1994年の設立以来STUDIOの前身である専門スクールで積み上げてきたリアルな教育の知見、そして2005年以降にオンラインスクールで積み上げてきたオンライン教育の知見、それらを組み合わせた独自のハイブリッド型教育スタイルとして誕生したのがこの『デジタルハリウッドSTUDIO』でした。
とはいっても、2012年頃はハイブリッドラーニングや動画教材に対する理解が今ほど進んでいなかったかと思います。やはり今と受け止め方は違いましたか?
原田様:まさにその通りで、本当に大変でした。ちょうどハイブリッドラーニング、反転学習といった言葉が出てき始めた頃でしたが、世の中的にはリアルの授業がすべてという雰囲気で「動画を使った授業なんて」「本当に学べるの?」という反応がほとんどでした。
それでもハイブリッドラーニングを推進された、そこにはどんな思いがあったのでしょうか。
原田様:「デジタルを使いこなすことで受講生の皆さんに自由な働き方と生き方を手に入れてほしい」、これがデジタルハリウッド設立当初から学長である杉山が語っていた思いです。当時からこのコンセプトに共感した女性の受講生が多かったのですが、次第に主婦や子どもを持つママさんへと受講者層が広がってきていました。
ですがママさんの場合、「平日夜19時から授業です」とか「土日にまとめて6時間来てください」といってもなかなか来られませんよね。そこで「受講生本位の学び方ってなんだろう?」と徹底的に考え、1人1人が好きな時間で学べる方法、だけど確実に学べる方法として反転学習型のハイブリッドラーニングが有効だという結論にたどり着きました。
新宿校で試験的に始めたところ、離脱率ゼロ。しかも作品のクオリティが上がったんです。そこで「これはメリットしかない」ということで自信を持って進めることができました。
2013年には時代に先駆けて「主婦ママ専用クラス」をスタートされ話題になりました。
原田様:私たちにとってもチャレンジでしたが、驚くほど反響がありました。子供を寝かしつけながら、あるいは家事の合間に動画を見ているという熱心なママさんもいらっしゃって。ハイブリッドラーニングを導入したことで本当に幅広い方に受講していただけるようになりました。最近ではあらゆる産業でテクノロジー活用が必須となってきていますので、記者さん、自治体の方、喫茶店のマスター、大学院だとお医者さんなど、受講者層はますます広がっています。
長年のハイブリッドラーニングの経験から、ハイブリッドラーニング成功の秘訣はずばり何でしょうか。
原田様:現場にこだわった実践的なカリキュラム開発、新しいスキルや技術はすぐに取り入れて動画教材化すること、LMSを使った分析、など色々とありますが、やはり“いち早くトライする”ということ。実践知というのかな、実践して知見をためていくということは我々メンバー全員が心がけています。あれこれ考え過ぎず、「こうじゃない?」「こうだね!」と思ったことをまずやってみる。結局コロナも、それで乗り越えることができたと思うんですよね。
高品質なハイブリッドラーニングにLMSが必要な理由
もう1つお聞きしたかったのが、ハイブリッドラーニングにおけるLMSの意義です。LMSがなくてもハイブリッドラーニングはできると思いますが、その辺りについてはどうお考えですか。
原田様:高品質なハイブリッドラーニングを実現するためにはLMSを使うことが必須だと思います。リアルとオンラインの組み合わせをやっていくとき、オンライン学習の進捗管理ができていることが大前提だからです。単に動画を視聴してもらえれば良いわけではなく、視聴進捗、課題提出状況、理解度、これらを把握することでリアルの場で1人1人にあった指導やフォローができ、効果的な学習につながります。
私たちも確実にスキルが身につく学び方としてハイブリッドラーニングの導入を決めましたが、その判断もオンラインスクールでLMSを使っていた経験、知見があったからこそ。独自の教育ノウハウを動画教材化してLMSで提供することで『デジタルハリウッドSTUDIO』というフランチャイズ形式での多拠点展開が可能となりましたので、そういった意味でもLMSが果たす役割は大きかったと思います。
多拠点展開される上で同じ教育品質を提供するために工夫された点はありますか。
原田様:今も取り組みの最中ですが、パッケージ化するという作業でしょうか。属人的ではなく、誰がやっても同じ内容・品質にすること。そのためにはまずマニュアルを書くところから始めました。今まで自分がしてきたことを言語化する、手順化するというところから始めて、それが今運営マニュアルになっています。
最近それをリニューアルし、動画教材化して『Any』に登録しました。全国のSTUDIO運営者に見ていただいた上で実際に集まりロールプレイングなどを行うという、こちらもLMSを使った反転学習スタイルになっています。今後開校予定の拠点がありますが、そこの方たちは今『Any』をすごく見ていると思います。
LMSをスタッフ教育にも活用いただいているんですね。フランチャイズ展開の場合、企業理念や思想の共有がカギとなりそうですが、その辺りはどうされていますか。
原田様:基本的に営業などはしておらず、目指していきたい方向性を打ち出して共感いただいた企業さんと1人1人お話をさせてもらっています。同じ方向を向いているということが双方確認できて初めて「一緒にやりましょう」となるので、大きな乖離は今のところ起きていないですね。
受講生の募集スタイルも全く同じで、「デジタルスキルを身につけて自由な働き方と生き方を手に入れてほしい」という世界観をつねに発信し続け、それに共感された方お1人お1人とキャリアカウンセリングをしてご入学いただいています。長いときは数時間にわたって身の上話をお聞きすることもあります。その結果、違うねとなったら入学されない場合もあります。入学していただくのが目的ではなく、その方が成し遂げたい自分らしい働き方をコンサルティングしていくのがSTUDIOスタッフの役割と認識しています。
弊社デジタル・ナレッジも「お客様と受講者をつなぐ“学びの架け橋“となり、より良い教育を実現していく」を理念に掲げておりますので、とてもシンパシーを感じました。
原田様:そうなんです。デジタル・ナレッジさんとは根本の理念が近いんですよね。我々解決したい社会課題を軸に事業を展開していますので、そこが共鳴できる企業さんと一緒にやりたいと常々考えています。デジタル・ナレッジさんとはまさに理念の部分が共感できるので、これだけ長いお付き合いにつながっているのかなと思います。
ここまでお話を伺って、設立以来積み上げてこられたリアルな教育の知見、オンラインスクールでのLMSの知見、それらを組み合わせた高品質なハイブリッドラーニングをいち早く世の中に提示した『デジタルハリウッドSTUDIO』の現在の躍進は、ある意味必然なのかなという気がしました。
原田様:3人のお子さんを持つママさんがスキルを身につけ自分らしく生き生きと働く様子など、たった1人の受講生の人生が変わることでその地域全体が元気になっていくような変化を全国のSTUDIOでたくさん目にしています。地方創生とか女性の活躍推進などと言われますが、結局のところ1人の人の変化をたくさん広げていくことが課題解決につながるのではないかと思います。そして1人1人を確実に変えることを可能にしたのが、まさにこのハイブリッドラーニングだったと思います。
これからの教育機関に求められるのは「挫折しない仕組み」
今後、ますます多様化する受講生に対し、どのような取り組みが必要ですか。
原田様:「誰もが確実に学べて挫折しない仕組み」だと思います。今、オンラインで学べる仕組みはたくさんありますよね。では、なぜ皆さんお金を払ってスクールに入学するのか。オンライン上で自分を律して学びを完結できる人は圧倒的に少ないんです。そこをスクールにサポートしてほしいし、共に学べる仲間、フォローしてくれる先生の存在が必要です。こうしたトータルの意味での“挫折しない仕組み”を作ることが教育機関にとって一番大切なポイントになってくるのではないかと思いますし、我々もその仕組みを一生懸命作ってきました。
たしかに「受講者が挫折しない仕組み」は今、多くのオンライン教育事業者が直面されている課題です。
原田様:私自身もずっと考え続けているテーマですが、ひとつは「評価を受けること」ではないかと思っています。分野に関わらず、目指している目標に対して自分が今どの辺りにいるのかを理解できれば、自然と頑張らなければという気持ちになりますよね。そういった思いで作ったのが先程お話したマイページ機能でしたし、さらに今、独自の評価制度を開発しています。
独自の評価制度とはどういうものですか。
原田様:もともとデジタルハリウッドでは、受講中に企業さんのお仕事案件に取り組み、企業さんから評価していただいた上で、最終的には自分の実績としてポートフォリオに掲載することができる取り組みを長年行ってきました。実際のお仕事を在学中にできるのもすごいですし、就転職にも結びつきますし、何よりも業界の第一線の方々に評価されることで自身の立ち位置が明確になりますので、「もっと頑張ろう」など受講生の方の強力なモチベーションアップにつながっていました。我々の強みでもあるこの部分をさらに強化していこうと、すべてのコースに評価制度を導入するというのを今まさに行っている最中です。
第一線の業界企業から評価を受けるという経験は、たしかに強いモチベーションとなりそうです。
原田様:長年、産学共同をコンセプトに産業界一体となってクリエイター養成に取り組んできましたし、ありがたいことに設立以降、多くの卒業生が第一線で活躍されていますので、ほとんどの企業をたどっていくと卒業生につながります。こうした産業界との強いつながり、受講生・卒業生同士のコミュニティはこれまである種自然発生していたものですが、ここに大きな価値があるとの認識を新たにし、在学中、そして卒業後も仲間とつながりリアルでもオンラインでもフォローし合いながら共に学び合える場を含めた「挫折しない仕組み」を形にしようとしています。
「ハイブリッドラーニング」+「挫折しない仕組み」、ポストコロナ時代の新しい学び方となりそうですね。
原田様:「自分らしく生きられる人を増やす」というデジタルハリウッドのビジョンをどうやって実現、実践していくのか? コロナ禍では私たちの“学びへの姿勢”をとても試されたなというふうに感じています。これからも1人1人の真の課題解決につながるような学びと実践の場を提供できるよう、一生懸命取り組んでいきたいと思います。
「挫折しない仕組み」を実装!Webデザイン・Webデザイナー専攻コース
現役プロ講師の指導で、最新のデザイン、コーディング、マーケティングなど現場で即戦力となるスキルが身につく。未経験からWebデザイナーを目指す社会人/大学生向けのコースです。
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『デジタルハリウッドSTUDIO』提携先募集中
出店地域に特化した形でデジタルハリウッドSTUDIOを開設いただけるよう、デジタルハリウッド設立より27年の間に生まれた多くの実績を基に築きあげた教育ノウハウとメソッドをパッケージングし、全国各地の業務提携企業にライセンス方式で提供しております。
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ご利用いただいた製品・サービス
お客様のサイト
お客様情報
名称 | デジタルハリウッド株式会社 |
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設立 | 1994年10月3日 |
本社所在地 | 東京都千代田区神田駿河台4-6御茶ノ水ソラシティ アカデミア4F |