eラーニングシステムは、かつては企業においては主に知識習得の研修手段として使われてきた。ところが2010年頃からは技術習得の手段として急速に普及している。
デジタル・ナレッジ社でも外食チェーンやフィットネスクラブチェーン等への導入実績があるが、実際の店舗オペレーションの現場ではどのようなニーズがあるのだろうか。また将来的にはどのように発展していくのだろうか。 フランチャイズビジネス業界の団体である「一般社団法人 日本フランチャイズビジネス協会」にコンタクトし、業界団体としてのお考えをお聞かせいただくことにした。
伊藤氏: 日本フランチャイズチェーン協会(Japan Franchise Association、以下JFA)は、フランチャイズビジネスの健全な発展と育成を目的に、通商産業省(現・経済産業省)の認可を受けて1972年に設立された団体です。会員は小売、外食、サービス企業など、全500社に及びます。
伊藤氏: チェーン数では4割程度ですが、店舗数では5割、売上高では6割を超えています。なかでもフランチャイズビジネスを牽引するコンビニ業界の会員シェアは、店舗数で98.6%、売上高では99.5%を占めており(*1)、JFA会員企業が業界をリードしているといっても過言ではありません。
伊藤氏: フランチャイズビジネスをより健全に発展させるための、プラットフォームとしての役割です。JFAはフランチャイザー(本部)の集まりですから、まず我々がフランチャイズビジネスに真摯に取り組むことこそが、市場健全化の礎となります。そのため、JFAでは会員企業の行動規範となる「倫理綱領」の策定、教育研修、各種調査研究などを行ってきました。
伊藤氏: フランチャイズビジネスの根底にあるのは、ザー(本部:フランチャイザー)とジー(加盟店:フランチャイジー)のバランスの取れた関係です。両者は応分に投資し、互いに責任を持ってビジネスを行うパートナーでいわば天秤の関係。上下関係ではないんですね。そして、その両者を繋ぐのが「スーパーバイザー」という存在です。
スーパーバイザーはザーとジーの間に立って調整を行ない、それぞれの考え、そして経営理念を共有します。フランチャイズビジネスでは、いかに経営理念を大事にしているかが成功に直結します。それを伝えるスーパーバイザーはフランチャイズビジネスにおいてもっとも重要な存在と言ってもいいでしょう。
伊藤氏: おっしゃる通りです。そこで我々は、「スーパーバイザー学校」を開校し、スーパーバイザーの育成に40年以上かけて取り組んできました。さらに、外食やサービス業では比較的創業社長の方が多く、規模が大きくなってきたときに後継者育成の問題が出てきます。そこで「フランチャイズ経営士講座」という教育システムを作って幹部の育成に努めてきました。また、時代に応じて多種多様なセミナーを開催し、タイムリーな情報発信、教育を実施してきました。
伊藤氏: 我々の教育システムの特長は、多業種多業態の発想やアイデアを横断的に共有できるという点です。例えば、グループワークでは毎回参加者の組み合わせを変え、敢えていろいろな業態の方が混ぜこぜになるようにし、意外な視点からの気付きや刺激を喚起しています。
学校でのつながりをきっかけに違う業態の方たちと積極的に交流を持つことも推奨しています。今はまったく関係がないかもしれませんが、今後違う業態同士がくっついて新しいビジネスが生まれるかもしれませんよね。同じ釜の飯をつついたメンバーだからこそ、気楽に連絡を取って相談しあえる。リアルでつながった世界の強みだと思います。
伊藤氏: フランチャイズビジネスにおいてやはり人、人材が重要ですから、これからも教育には力を入れていきたいですね。
インタビュー当日も会議室では会員向けセミナーの準備が行われていた。こうしたセミナーが年間を通じて活発に開催されている。
*1)2017年8月時点
伊藤氏: 日本全体の課題として少子高齢化の問題がありますが、ビジネスを広げてチェーン展開をしていく我々にとってもまた、厳しい状況と言わざるを得ません。国内のマーケットだけでなく、海外を大きく視野に入れた展開をしていかなければならないのが、まず一つ目の課題です。
二つ目は後継者問題です。経営に携わる方々が高齢化してきた今、どのようにうまく事業承継を行うか。もちろん、魅力あるものでないと承継されていきませんから、そこをいかにサポートしていくかが我々の課題だと捉えています。
「書く」「話す」を含めた4技能対策が早急に求められる公教育の現場にて導入が進みつつある、AIツール「トレパ」。
この仕組みを店舗オペレーションのトレーニングに活用することで、「ストローをお付けしますか?」「お弁当を温めましょうか?」などのやり取りがAIをトレーニング相手として実践できる。
伊藤氏: これはまさにその通りで、外国人スタッフの教育を日本人がすべて問題なく実施できているかといったら、そうではない。海外拠点で日本人スタッフを有効に指導できているかといったら、こちらも課題がある。その両方を、あらゆる言語に対応してAIがどんどん指導してくれるということですね。学校の授業での有効性というのは非常によく理解できますし、フランチャイズビジネスにおいても有効だと思います。インバウンド対策としても使えますね。
伊藤氏: 「いらっしゃいませ」といわれること自体、違和感を覚える海外の方もいます。やはり文化の違いや言葉の壁って大きいんですよ。仕事力やビジネスが評価されても、言葉の壁でうまくいかないこともありますから。その壁を超えることができれば日本人はもっと海外で活躍できるし、外国人も日本で活躍できる。そういった点でAIの活用は期待できますね。
これまでは学びと資格と仕事は分断されていたが、実際は現場に立つと新しい気付きがあったり、新しいノウハウが手に入ったりする。
従来は紙ベース(アナログ)で行っていた現場の作業進捗チェックや業務管理をオンライン化することで、本部でリアルタイムなチェックが可能に。この延長に学びもあり、「トイレ掃除の仕方ってどうだったっけ?」と思ったらすぐにマニュアルが見られるなど、業務管理と学びが一つのタブレットで完結する。
伊藤氏: これは学ぶ人の姿勢が問われますね。私もローソン出身でいろいろな研修をやってきましたが、タブレットを使った自己学習を一生懸命やる人もいればやらない人もいる。これはeラーニングに限った話ではなく、紙のマニュアルでも同じです。ですから基本は、人が人を教えるということ。挨拶ひとつにしても、相対で丁寧に指導することを大切にしています。
そのうえで、OJTを補完するツールとして、たとえば作業手順がわからなくなったときにタブレットでマニュアルを見るとか、そういった使い方はありえますね。ICTは人による教育に取って代わるものではなく、サポートするもの。リアルな学びをより高めるためのICTが求められているのではないでしょうか。
伊藤氏: ITや機械化をいかに導入し活用するかは、フランチャイズビジネスにおいて非常に重要なポイントですね。必要不可欠といってもいい。
フランチャイズビジネスの中ではコンビニ業界が一番進んでいます。コーヒーがいい例ですね。コンビニのコーヒーは昔からありましたが、どこも成功できなかった。当時はまとめてドリップして置いておくしかなかったから当然です。最初はいいけど時間が経つと酸化してしまう。コンビニのコーヒーは美味しくないと散々言われました(笑)
伊藤氏: ところが数年前、技術革新により、一人ひとりに挽きたてのコーヒーを瞬時に提供できるようになり、一気に市場が拡大しました。それから今、マルチコピー機とよばれるものが導入されていますが、あれはコピー機ではなくハイテクマシーンなんですね。住んでいる地域外のコンビニでも住民票や印鑑証明などが取り出せる時代になりました。
伊藤氏: そうですね。マニュアルもそうですし、発注業務から在庫管理まで全てタブレットでやっています。発注業務って、実は高度な業務なんです。いろいろなデータが頭に入っていないとできないでしょう。タブレットなら過去のデータ、何個発注しているか、在庫はいくつか、全部見えるわけですから大変便利なんです。そういえばその昔、POSを導入したのもコンビニが先駆けでした。以前は単品管理という言葉はありましたが実際にはできていなかった。それを実現したのもICTの力で、コンビニでの成功例が他業界に波及していきました。技術革新を最先端で導入し取り組んできたのが、コンビニなんです。
伊藤氏: より大きな変化は、10年後、もう少し先になるかもしれませんが、コンビニが地域医療の中核となることです。超高齢者社会において今の医療制度が持たないことは明白です。一方で、ICTの驚異的な進化により、離れていても問診や生体データのやり取りが可能になってきています。
つまり、体調が悪いとき、近くのコンビニに行けば端末の向こう側に医師がいて24時間診てくれるようになるわけです。もちろん、実現には法律の改定も必要ですしいろいろな障壁はありますが、しかし可能性としては、病院の機能もコンビニが果たしていく未来があるのではないかと思います。近い将来、大きな変革が起きるのではないでしょうか。
伊藤氏: これはリアルな店舗が社会の隅々にまで行き渡っている日本ならではの現象かもしれません。中国ではリアルな店舗ができる前に携帯端末が普及したため、個人がオンラインであらゆるやりとりをしていますよね。もちろん日本でも家にいながらネット上で医療、というのも技術的には可能でしょうが、なかなかそういう環境にない方もいらっしゃるわけです。
コンビニというリアルの店舗では誰もが買い物をし、そしてまたいろいろなサービスを簡単に受けることができます。そういう意味でも、これだけ日本中にネットワークを張り巡らせているコンビニが、地域住民の人々の中で、今後もますます重要な役割を果たしていくのではないかと考えます。
JFAは警視庁と共に、チェーンの垣根を越えた犯罪に強い店舗を構築し、地域住民の安全・安心の拠点とする「まちの安全・安心ステーション東京」計画へ取組むことを宣言している。
伊藤氏: 効率化も大事ですが、リアルな店舗では人と人との繋がり、コミュニケーションの部分があるからこその良さがあります。そういったマインドは今後も大切にしていきたいですね。
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フランチャイズビジネスといえば、加盟金・ロイヤリティ・マニュアルといったどちらかというとクールな世界をイメージしていたのだが、実態は、理念と人が重要であるというホットな世界なのだということが感想だ。
これまでの企業内におけるeラーニングや教育ICTの導入背景としては、管理部門の負担軽減や責任回避という側面もあったことは事実だが、フランチャイズビジネスはザーとジーがお互いにリスクを持ちながらビジネスを行う天秤関係の中では、あくまでも効果をあげるためであり、定着すること、エンドユーザーに届くことが当然のゴールになっているのであろう。
私自身の話になるが、小学高学年の頃、近所に「朝7時から夜11時まで開店」していて、なんでも売っているお店が突然あらわれた。大学生になった頃には24時間営業が当たり前になったコンビニでアルバイトをし、そして今も頻繁に立ち寄り利用している。いわば「コンビニ第一世代」である。確かに振り返ってみると取り扱う商品は増え、販売以外のサービスも何倍にもなっていることを実感する。
これらの進化を支えたのは各種の機械化・自動化であり、ITテクノロジによるところも大きいと思われるが、根底部分にあるのは理念であり、スーパーバイザーを始めとする人材に他ならない。そして、世の中の変化、テクノロジの進化、新サービスの開発や定着の裏には必ず人があり、「教育」があったのだ。
インタビュー前には、スタッフの採用難・外国人スタッフの育成という話題になるのではないかと思っていたのだが、長く業界に携わられてきた伊藤専務理事はより大きな課題意識と、大きなビジョンをお持ちだった。
日本におけるフランチャイズビジネスやコンビニを中心とする多店舗チェーンの、これからの発展の歴史上、現在はまだ始まったばかりと言えるのであろう。 全国に店舗が浸透した現在、教育ICTは新しいサービスを提供する側のノウハウ共有の下支えとしてこれからも活用され、またICTがサービスのフロント化するシーンも増えながら、また新たな価値を生み出していくのであろう。
(取材日 2018/2/7)
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