調理や券売機操作を教えるうえで、従来のOJTにどんな課題があったのでしょうか。
劉様:本来あってはならないことですが、トレーナーや店によって微妙にやり方や教え方が違うという問題がありました。VRなら1番正しいオペレーションを、どの店舗でも均一に学習することができます。
田中様:とくに券売機VRは現場でも非常に評判が高いんです。なぜかというと、疑似体験ができない(意図的に券売機トラブルを起こすことができない)からです。
トラブル対応のためのVRもありますね。
田中様:これも擬似体験ができるのが大きいですね。何も経験していないのと、事前に体験して正しい対応を学んでいるのとでは大きな差が出ます。トラブルやクレームって「起こしてしまったからアウト」ではなく、対応次第ではお客様の信頼につながることもありますよね。そういったことを示せるコンテンツになっているかと思います。新人アルバイトが実際に店舗業務をスタートさせる際の緊張やプレッシャーを和らげる効果もあるのではないでしょうか。
商品こぼしや出し間違いなど、よくあるトラブルに対し解説を聞きながら対応を実践していく。
店長の拘束時間が6分の1へ激減! 「eラーニング×VR」の成果
これまで各店で行っていたOJTをVR化することで教育の標準化ができ、さらには再現しづらい状況を疑似体験できるということが分かりましたが、ほかにもVRのメリットはありましたか。
田中様:調理に関していうと、以前なら実際にオーダーが入ったときに作りながら教えるというケースが多かったんですね。逆に言うと「今日は生姜焼き定食を覚えよう!」と話していても注文が入らなければ学べない。繰り返し訓練ということになると、さらに何回も注文が入らないとできませんでした。VRにしたことで、注文状況に左右されず、能動的に教育や繰り返し訓練ができるようになったのは大きなメリットでした。
昨年先行導入された接客トレーニング用のVRを使っていく中で、なにか見えてきた効果はありましたか。
田中様:もっとも目に見える成果は
店長の労働時間減少です。通常、アルバイトの初出勤時には店長や社員がトレーナーとして付き、オリエンテーションを行ないます。時間にして約3時間。その間、トレーナーはほかの仕事をすることができませんでした。それがVRとセルフオリエンテーションにより、トレーナーとしての実働時間が30分以下に大幅に減少し、その分ほかの業務に時間を使えるようになったんです。
セルフオリエンテーションとはなんですか?
田中様:松屋のeラーニング「MELS(以下、メルス)」のことです。以前は店長が教えていた松屋の経営理念などの座学内容を、動画教材で自己学習することができます。VRとメルスによる学習は店長側から高い評価を受けていますし、アルバイトスタッフからも「わかりやすい」と好評です。それだけではなく、教育時間の短縮にもつながっています。
劉様:今までのオリエンは店長とアルバイトスタッフのマンツーマン形式で3時間程度行っていました。これは座学のみです。それが今では、メルスで1時間くらい座学部分を自己学習した後、VRで接客を学んでもらっています。VRによって教育時間が短縮でき、かつ正しい店舗業務を学べるという二重の効果を生み出しています。
田中様:結局のところ現場でOJTを行う場合、お客様がいらっしゃらなければ具体的なことが教えられなかったのが、VRであれば個々のタイミングやペースでいつでも教育可能であること、しかもナレーションなしモードで繰り返し訓練できること、それが一番大きいと実感しています。それに「人が人を教える」OJTには膨大な教育費用がかかっていました。VRを作るのももちろん大変ですが、結果的にはコスト削減にも繋がっていますし、やって良かったと思っています。
すばらしい成果ですが、一方でここまでの取り組みはスムーズにお店に浸透しましたか。
田中様:メルスもVRも、最初はなかなか使ってもらえませんでした。お店側からすると、なにか得体の知れないものが入ってきたという感じで「自分が直接教えた方が早い」という店長も少なくなかったと思います。でも1回でも使ってもらえれば、その良さを実感してもらえました。2年前に始めたメルスの動画教材によるセルフオリエンテーションがようやく浸透してきた頃だったので、VRも受け入れてもらいやすかったのかもしれません。
メルス(eラーニング)の動画教材。VRと組み合わせることでトレーナーいらずのアルバイト教育が可能に。
eラーニングで培った土台がVR活用へとつながったわけですね。
田中様:最近では、社内で何かを教えよう、浸透させようとなった時、気軽に「じゃあそれVRで作ろうか!」と言うようになってきたんです。そんなに気軽には作れないんですけどね(笑)。深夜の掃除やメンテナンスなどにもVRを活用したいという声も増えてきています。
松屋さんでは外国人スタッフが多数活躍されていますが、外国人の皆さんにもVRをお使いいただいていますか。
田中様:むしろ外国人スタッフの方が多く使っているかもしれません。VRは日本語のほか、中国語、ベトナム語に対応していて、未経験の外国人のアルバイトスタッフがスムーズに店舗業務に入るための大きな助けになっています。首都圏では外国人アルバイトが主力になっている店舗もありますからね。
劉様:講師役のベトナム人の社員が、VRを使うことで講師がすごく楽になったと言っていました。私もVRを使ってベトナム人のアルバイトの子たちを教えましたが、今まではジェスチャーを交えて苦労しながら教えていたものが全てVRに集約されているので、とても良いです。
バーチャルOJTを可能にしたVR。実現のポイントとは
OJTをVR化するにあたり、前回の接客VRは次の3点を重視して開発されました。1つめの「判定」は仮想空間で適切な動作ができているかチェックする機能ですが、今回の調理や券売機VRにもこの判定が入っていますか?
1. 正しい動作や目線、発声にゲーム感覚で取り組める判定機能
2. ヘッドマウントディスプレイを装着するだけで、座ったままでもリアルに体感できるコンテンツ
3. 仮想空間の中でも迷いなく、かつ能動的なアクションを促進するナビゲーションやナレーション
田中様:もちろん入っています。たとえばお客様がご来店されたときの「いらっしゃいませ!」では、一定以上の声量であいさつができているかが判定され、基準に達していなければ繰り返しあいさつが求められます。お客様の方をきちんと見ているかの目線も判定対象です。今回のVRは調理がありますので、発声や目線はもちろん、調理手順や器具の使い方などが正しくできているかを細かく判定しながら進むプログラムとなっています。
目線、発声、手順など、正しい動作かどうかを随時自動判定。クリアしないと前に進めない仕組みだ。
クリアできないと前に進めないというゲーム性がポイントですね。
田中様:VRは直観的に体感できるので、とっつきやすくゲーム性を持たせやすいんです。今回はこのゲーム性をさらに発展させ、クイズ形式で混雑時の正しい対応を学べるVRも作りました。
ピーク時対応VR。場面ごとに「このシーンでは何を優先する?」など3~4択のクイズが出題。
終了画面では「あなたは店長クラスです!」といったレベルも表示されゲーム感覚で楽しく取り組める。
新しいVR開発に際し、弊社担当者の対応はいかがでしたか。
田中様:無理難題を受け止めてくださって本当にありがたかったです。とにかくできるかどうかの確認もせずに、「こうしてください」「ああしてください」とお願いしました(笑)。とくに“現場感”を重視したので、焼きベラを鉄板に当てている時はもっと振動がくるようにしてほしいとか、現場で実際に作業しているときと同じ動き、リアルな感覚になるよう何度も何度も試行錯誤を繰り返しました。それに全部応えてくださって、出来上がったものを見るとその通りにできていたのでものすごく感動しました。期日もそうですし、こちらが要求するコンテンツのレベル、リアル感、すべて担当のDさんがパートナーだったからこそ、ここまで作り上げられたと思っています。
コロナ禍で広がったeラーニング活用。今後の展望は
コロナの感染拡大により、研修や人材育成にどういった影響がありましたか。
田中様:これまで毎月行っていた集合研修を一旦全て中止にしました。
劉様:4月の新入社員研修も、例年は1ヶ月程度行ってましたが今年は全て無しにして、代わりにメルスで研修の動画を見てくださいというようにしました。
田中様:店長昇格試験もメルスで行いましたし、結果的にeラーニングの活用範囲が広がった1年でしたね。
VR研修はこれからどのように展開していかれる予定ですか。
田中様:VRは首都圏の一部の店舗で導入がスタートしたばかりなので、見えてきた成果をしっかりと検証し、共有することで、まずは牛めしの松屋でVR研修を普及させていきたいですね。将来的には、とんかつなどの他業態への展開や、宅配事業の配達業務をVRで擬似体験させるなど、幅広い活用を考えています。
eラーニング×VRの取り組みはこれからどのように発展していきそうですか?改めて今後の展望をお聞かせください。
田中様:今は大変な時期ですが、コロナ収束のその先を見据え、人材育成に取り組むことが大切です。教育の均一化、トレーナーの労働時間削減、そして何よりも、お客様に満足していただくこと。この1点にとにかくこだわっていきたい。そのために、eラーニングとVRがさらに活躍してくれるのは間違いないと思います。
先程のゲーム性の話につながりますが、能動的・自発的に学び働ける仕組みをVRで実現したいという構想を持っています。たとえば、メルスと連動させることでVRトレーニングの結果を点数化したり、ランキング化して社内で表彰したりすれば自発的に学びスキルアップを目指す人も増えてくるのではないかと期待しています。
ご利用いただいた製品・サービス
お客様情報
会社名 |
株式会社 松屋フーズ |
創業 |
1966年(昭和41年)6月 |
設立 |
1980年(昭和55年)1月16日 |
本社 |
東京都武蔵野市中町1-14-5 |