先ほど自分のFacebookに投稿して、「うーん、確かにそうだよなぁ」と思った内容をBlogでも(ちょっと加筆して)アップしておきます。
昨今、UX/UIの考えが広まってます。
UIは User Interfaceの略。ユーザとマシンとの接点、狭義の話でいうと、パソコンやスマホで画面に表示されたり、ボタンを押したり文字を入力したりする見た目や機能のことですね。これは昔から「ユーザインタフェース」として定着している概念です。
UXは User eXperienceの略。ユーザが機能やサービスを使ったときに得られる経験や満足のことです。UIをいい具合に調整した上で他の機能含めてユーザの満足や快感を満たすようにしておくと、「使って楽しい」「なんか気持ちいい」という感覚が生じます。このことをUXと言ってます。
たとえば、スマホでスクロールすると、加速度や反動をリアルに表現したような「ぬめり」感があったりするのもUX/UIのお仕事です。使って気持ちいい! という感じでしょうか。
さらに「ユーザ体験」であるUXは、単なるインターフェイスの話だけでなく、サービス全体やユーザの利用シーンを想定して初めてなし得るものともいえます。
さて、そんなUX/UIについて考えるとき、私はひとつ思い出すことがあります。
唐突ですが「石臼」ってありますよね。平べったい円筒状の二つの石が重なり合って、上に穴が空いてて、豆などを落として回すと粉になる道具。
(著作権フリーの適切な画像が見当たらなかったので、楽天の「かごや」さんのサイトからそれっぽいのをリンクして引用しました)
こんなの。日本まんが昔話でおばあちゃんが土間や囲炉裏端で回しているようなイメージでしょうか。
さて、この石臼、どちらに回転させるのが正しいのか?
おわかりになりますか?
石臼を初めて触る人や事前知識のない人に渡すと、大抵時計回りに回します。特に日本人は回転といえばデフォルトが時計回りのようなので、初見だと時計回りに回すんじゃないでしょうか。でもこれ不正解なんです。
石臼はごく一部の例外を除き反時計回りに回すのが正しいのです。そして石臼は反時計回りに回したときに粉がきれいに挽けるように作ってあります。
以前私がスタジオジブリに在籍していた頃、高畑勲さんにその理由を教わったことがあります。
もっとも力が入り、かつ楽に作業できるのは腕を引くときであって押すときではありません。
そして普通の人(右利きの人)は、左手で把手を持ち、右手で豆を石臼の上の穴に入れます。右手で豆をすこしずつ入れながら、左手でうわっと引っ張って回転力を与えるのです。
この引っ張るときに、腕が体に近い側にあるときと奥にあるとき、どっちが力を入れやすいでしょう。やってみるとわかりますが(皆さんも、ちょっと手を動かしてイメージしてみてください)、奥にある方、つまり向こうからコッチに引っ張る方がやりやすいのです。逆に手前から奥へはうまく引っ張れないかと思います。手が逆手になるといいますか、力がうまく入りませんし肘が大きく動いてしまいます。
そういうわけで反時計回りのほうが都合がいいわけです。
さてさて、ここで本題に戻りますが、この石臼から私が考えることは以下2点です。
- そもそも事前知識なしにぱっと渡されて操作する方法がたいてい間違えるUIというのは、どうなの?
- 人間は直感で行う作業が必ずしも合理的とは限らない。一度正しい知識を得て正しい操作を学ぶことで効率が上がることがある。
この2つを行ったり来たりしています。
一般にUX/UIというと、「初見で正しい操作が行え、しかも使って気持ちいい」というのが求められますが、石臼的にいうと「たとえ初見で正しい操作が行えなくても、ちょっと教えてあげるとパフォーマンスが発揮される」、つまり「慣れが必要だけど、慣れると生産性が高まる」というのもアリなんじゃないか、とも思えたりします。
なかなか難しいところです。
ところで、石臼の回転方向は洋の東西を問わず反時計回りです。これは、日本に石臼をもたらした中国も同じく反時計回りで、石臼のルーツとされる古代ギリシャでも反時計回りだったそうです。
この回転方向の決定は、上記の左手の合理性ではないという話もあります。古代ギリシャ人に限らず今でも西洋の人がマルや「O」を書くときに反時計回りにぐるっと書くのがスタンダードです。つまり彼らにとって回転といえば反時計回りがデファクトスタンダードだったからというわけです。
こうなると左手で回し右手で豆を入れるからというのは後付けで、使いこなし方を人間が合わせたという風にもとれます。
今でももしかすると石臼の予備知識のない西洋の人に石臼を渡すと多くの確率で反時計回りに回すのかもしれません。
となると、UX/UI的にはまーったく問題ないわけで・・・
ますます、ややこしいですね。
UX/UIってのも、考え出すと奥深いもので。
■関連情報
- 「かごや」さんの「石臼(特大)」(すみません、写真を引用させていただきました)