「緑色の目をした猫を飼っているアメリカ人が自転車で逃げた泥棒を追いかけた」をAIは添削できる?

By | 2018年6月28日

こんにちは!研究員・岡田です。

今夜は、サッカーワールドカップ・ロシア大会で「日本vs. ポーランド」戦ですね! 寝不足必至で、明日はセミナー(https://www.digital-knowledge.co.jp/archives/16261/)です。残席ありますので、当日申込お待ちしております!

弊社の英語AIツールのトレパも、タイムリーな公開コンテンツを用意しましたよ! 子供たちには、こんな身近な英文の方がいいのかもしれませんね。

 

先日、ある方がAIについて講演しているのを拝聴する機会がありました。

もともと教育畑の方で(そこは岡田と同じ)、AIを教育に活用するスタンスでお話をされていました(そこも岡田と同じ)。

 

ところが、やはりAIを論じるときに気を付けなければならない微妙なニュアンスをスルーしていたように思います。

あくまでも個人的意見ですが、ある特定の学問領域について「論じる」ためには、それなりの下調べをしなければならないと思います。学術書を一定量読んだうえでの話なのか、開発担当者から十分にヒアリングした上での話なのか、視点や立場や情報のソースについてはさまざまでしょうが。

その際のAIに対してのミスリードな論点は3つあったと思います。

 

① 強いAIと弱いAIの混同

② ルールベースと統計ベースの混同

③ 教育とエンターテインメントの混同

 

今日は、①について(だけ)書きます。※②③はセミナーで触れる予定。

 

①強いAIと弱いAIの議論 ~やっぱりシンギュラリティや無くなる職業の話題が払拭しきれていない問題~

最近では「シンギュラリティの話題」「いずれなくなる職業の話題」が(いくぶんトーンダウンした印象がありますが)雑誌などで取り上げられることもあり、メディア側の都合での情報が流布しているようにも思います。

そもそも、シンギュラリティという話題は、特定の論者による論であって、決定事項ではありませんし、専門家の中で一致した見解でもありません。しかも技術の進歩についての話です。

職業の話は、職業の中の「機能」が自動化しやすいかどうかについて考察した結果の一つの論であって、ある程度は重なるものの、調査団体によっては結果・評価に差異があります。

ai_shigoto_ubau

 

そんな中、教員の方々とお話をする機会がありました。そこで問題となっていたのは、「教育」現場にAIが入り込むかどうか、です。

結構真剣に「教師ってなくなる職業なのでしょうか・・・」と悩んでおられる方もおられました。

 

オズボーンさんの『未来の雇用』では、残る職業の中に「小学校教員」が入っています。興味深いのは、「教員」ではなく「小学校教員」なんですよね。ところが、別の調査では「教員」は無くなる職業に挙げられています。これらの論点は繊細な問題です。職業ベースで語るのではなく、職業のメイン「業務」が自動化できるかどうかという視点で議論しなければならないと思います。

このテーマの議論が錯綜するポイントの一つが、表現の使い方です。「職業」「仕事」「業務」「機能」という表現が無批判に使われる時に、誤解がうまれていますね。また同じ「仕事」という言葉でも、「やりたい(やるべき)仕事」(メインの業務)と「雑務」が混在して使われる傾向にあります。

例えば、立教大学の中原淳教授のブログ(http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/8944)でも紹介されていましたが、教員の多くは「業務改善をして空き時間が生まれたら、またそこに仕事をいれる」と答えているという事実があるようです。ここで「減らした(減らす対象となる)仕事」と「(新たに取り組みたい)仕事」をしっかり区別・整理して調査報告を読まないといけません。そうじゃないと論理的パラドクスのような話になってきます。

 

人工知能の活用に関しては、まだまだ人間のような「意識ある存在」や「汎用AI」の道のりはまだ遠く、せいぜい弱いAIをさまざまな具体的な「業務」「機能」に対して限定的に利用する、というのが現状です。まず状況を知ることですね。(弱いAI、強いAIについてはこちらを参照ください。)

 

しかし、AIの活用の限界について知る前に、「教員不足」「教員の仕事の効率化」という社会的要請もあり、「何とかして教員の業務をAIが肩代わりできないか?」というニーズの方が心理的に勝ってしまっている場合が多々あります。

「え?AIってこんなこともできないの?」という反応をされる方も多いのです。

 

一例だけ挙げておきます。

例えば、自由英作文の添削。これをAIができるかどうか、です。

添削をするためには、生徒の原稿が必要です。

・原稿を受け取る

・生徒が「本来書きたかったであろう内容」を添削者は推測する

・その内容(だと推測されるもの)と、実際の原稿の「表現の違い」を確認する

・「表現の違い」を、語句・文法・語法・意味・文化風習という観点から整理する

・それぞれの観点からアドバイス・提案を行う

・できれば、上記に加えて生徒の学習状況・習熟度を加味する

添削という一言の中に、人間の知能がフル回転していることが分かります。

 

語句や文法の診断くらいはAIでもチェックできる、と思われるかもしれません。確かに、AIを使って取り組みが実際に行われている分野です。辞書があれば十分対応できると考える方もおられるかもしれません。しかし、そう簡単なことではありません。

例えば、「緑色の目をした猫を飼っているアメリカ人が自転車で逃げた泥棒を追いかけた」という文章は、何通りにも解釈ができます。国語の先生であれば、読点の位置を工夫するように指導するでしょう。そうすることで、表現したい状況が制限されていくからです。

ここで、人間であれば、「本来書きたかったであろう内容」を推測するか、生徒に直接「意図を尋ねる」という行動をするでしょう。これをAIに任せてしまおう!というのは、教員の本質的な仕事を自ら放棄することに近いのではないでしょうか。

ai_shigoto_makaseru

教育現場の様々な業務や仕事を整理し、それらを「人がしなくてもいいもの」「人じゃないとできないもの」(本質的な仕事)にちゃんと区分けして、どこから自動化・効率化していこうか…という議論の先に、教育ICT活用やAI活用という論点があります。

じゃ、実際にAIを活用することで教育現場にメリットはあるのか?

 

その答えは、お会いしてお話ししましょう。

 

【デジタル・ナレッジのイベント】

・【6月29日】《初等中等教育》事例から学ぶ「教育×AI」導入セミナー https://www.digital-knowledge.co.jp/archives/16261/

・【7月12日】《初等中等教育》事例から学ぶ「教育×AI」導入セミナー https://www.digital-knowledge.co.jp/archives/16261/