以前より予告はしておりましたが、2022年11月30日に弊社LMSのKnowledgeDeliverのメジャーバージョンアップ版であるKnowledgeDeliver 7をリリースしました。今回はKnowledgeDeliver7のリリースを記念して、弊社の主力商品KnowledgeDeliverの誕生前夜のお話をご紹介します。弊社の目を通して見た、eラーニングの黎明期の歴史とも言えるかもしれません。
当初はKD7について語ろうと思って書き出したのですが、12月20日の弊社の創立記念日に近いこともあっていろいろなことを思い出し、前フリの歴史が思いの外長くなっちゃったので、こちらだけ切り出して先行公開します。KD7について(本来はそっちをちゃんと説明したいのですが)は後日改めて紹介いたします。(2022/12/23追記:こちらでKD7の設計思想について紹介しました)
目次
コンピュータを使った学びの揺籃期CAI: M-STATION
弊社が創業した1995年、最初のお客様である学習塾の明光義塾さんのM-STATIONという学習システムを開発していました。まだeラーニングという言葉がない時代で、強いてカテゴリ名を与えるのであればCAI(=Computer Aided Instruction/Computer Assisted Instruction)という言葉でしょうか。CAIという言葉は当時では一般に広まっていた言葉ではないにせよ、専門領域では使われる言葉で、例えば当時私は大学生のアルバイトでしたが、研究室ではCAI班というところに属しており、力学問題学習支援システムの研究を行っていました。
受講者はマッキントッシュや後に対応することになるWindows 95パソコンを自宅に設置し、中学の英語・数学・理科・社会の主要4教科を学習するというものでした。学習する際には専用のアプリを起動し学習をするのですが、教材CD-ROMも配布されており、学習する教科によってCD-ROMを差し替えて学習していました。
まだネット接続が高価な時代で常時接続はコスト面で難しく、学習は全てオフラインで行っていました。そして学習の前と後にだけダイアルアップ接続でネット接続してもらっていました。この学習前後の通信で、受講者の学習履歴をセンターに送り、先生からの指導内容や新着コンテンツ・アプリのパッチをダウンロードする仕組みでした。オフライン環境とはいえ常に最新のアプリケーション、コンテンツ、情報を整備するような仕組みでした。今考えてもなかなか良くできたシステムでした。
学習履歴や指導の扱いも工夫を凝らしました。受講者が学習をした履歴、たとえば各ページの試聴時間、テストの正誤情報、利用時間などを受講者自身が画面上で進捗確認ができるだけでなく、上記の通信の仕組みを使って本部に送信し、本部で全受講者の学習進捗や利用状況を一元管理することができました。これは今のLMSに至る学習履歴管理の原点になりました。
この学習履歴を本部で確認し、一人ひとりの受講者に合わせて次の学習の範囲や教材を指定して送る仕組みも実装しており、さらに進度や難易度に応じた学習プログラムをあらかじめ用意しておき、それぞれの受講者に最適な範囲を指定するような工夫もしていました。
さらに教材コンテンツとその制作プロセスにも工夫を凝らしました。何せ中学の全主要科目の教材を作らなければならないので、その作業量は膨大です。我々が一つずつ作るのは無理なので、どうしようと考え、誰もが簡単に教材を制作できるオーサリングツールを開発しました。このオーサリングツールを明光義塾の先生方に提供し、分散して皆さんで教材を制作いただくようにしました。このオーサリングツールは、フレックステキストと呼ばれる画面上にテキストを入力したり、絵を描いたり貼り付けたりできるお絵描きツールのような側面もありましたが、一番のポイントは音声をレコーディングし、その音声に合わせて指差しやマーカー、アニメーションを加えた教材がマウス操作のみで作れるという点でした。
この一連のアニメーションを「指示動作」と呼称し、単なる静止したテキストの「情報」だけでなく、先生の音声や動きによる「指導」を加え、教材としてのわかりやすさを演出し、受講者への定着を高め、モチベーションを喚起するものとして、その後も長らく弊社のアイコン的な存在でした。以来、現在に至るまで「教材制作をユーザサイドで行う:UGC」=User Generated Contentsは弊社のこだわりの一つです。
これらM-STATIONのアプリケーションはMacromedia社のDirectorという環境のLingoという言語で開発していました。当時私は日本で最もLingoを使い倒していると豪語してました(笑) かなり複雑で大きなシステムでした。
サーバはSun Microsystems社のNetraというUNIXのワークステーションを利用しました。受講者ごとに管理ディレクトリがあり、各受講者の学習前後の通信で受講者の学習データをFTPで配置したり、各受講者に用意された差分情報を配信していました。
ところでこの両者の社名をご存知ない方も多いと思います。MacromediaはAdobeに、Sun MicrosystemsはOracleにそれぞれ買収されました。時代の流れを感じます。
より汎用的なシステムへの志向: CBTシステム
我々に先見の明があったとするのならば、こうしてM-STATIONで作ったシステムを専用システムとするのではなく、最初から汎用化し他展開することを想定していたことだと思います。M-STATIONで培った教材オーサリングツールをInstructNow!という名前でパッケージ化し、営業活動を開始しました。そうして出会ったのが、資格の学校TACさんでした。
TACさんでは宅建と初級システムアドミニストレータの2講座をCD-ROMで学習するという計画でした。M-STATIONは子供向けサービスなので画面のオープニングからメニューに至るまで遊び心のあるインタフェースでしたが、社会人向けとなるとそのまま使うわけにはいきません。そこで学習を効率的に行うという観点でユーザインタフェースを設計し直しました。
システムとしてはCD-ROMからインストーラを使ってアプリケーションをインストールします。学習する際にはアプリを起動し、教材はCD-ROMを読み込む、差分情報のやり取りはインターネットで行いました。システムとしてはかなり作り替えたのですが、思想としてはM-STATIONを踏襲しました。
ただ、大人向けということでインターフェイスは全くの別物で、いかに効率的に学習するかに特化しています。アプリを開くと目次が表示されますが、章・単元からなる2階層の目次に整理しました。そして単元の下に「テキスト」や「テスト」といった学習内容が並ぶような構成にしました。この頃のUIのスナップは今手元にないのですが、章・単元・学習内容それぞれに学習進捗や得点の棒グラフや前回学習日が表示され、学習終了するとその行の色が変わるような画面でした。これは現行のLMSにかなり近いイメージだと思います。
M-STATIONは専用システムという感じがしましたが、TACさんのシステムは、もっと汎用的に様々な学びをコンポーネント化して展開できる可能性を示してくれました。あえていうなら汎用CBTの時代の幕開けでした。
ただ、このCBTの時代は長くは続きませんでした。2000年前後、ある波が押し寄せました。インターネットです。
インターネット時代の幕開け:WBT
現在もこうして利用しているインターネットの始まりは日本では大学間をつなぐ1985年発足のWIDEプロジェクトあたりだと思いますが、日本初の民間プロバイダであるIIJさんが1992年にサービス開始し、一般に提供されるようになりました。その後シェアをだんだん伸ばし、2000年の日本での普及率は17%にまで達しました。私個人としては大学入学の1993年にインターネットをUNIXで利用し始め、当時はMosaicというブラウザを使っていました。その経験を活かしてImpress社のInternet Watchに記事を書いたりしていたので、おそらく日本では黎明期からのインターネットユーザだったと思います。
Webブラウザは当時も主力アプリケーションで、Microsoft社のInternet ExplorerとNetscape Communications社のNetscape Navigatorが熾烈なシェア争いをしていました。その熾烈さは「ブラウザ戦争」とも呼ばれ、対応機能や速度を競うだけでなく、OSへのプレインストールの是非を巡る闘争まで至り、まあなかなか大変な戦いでした。換言すると、インターネットブラウザはこれから先のキーとなるアプリケーションで、これから先の時代、とても重要な位置を占めると言われていました。(実際そうなりました)
そこで、我々もCD-ROMやパソコンへの専用ソフトのインストールから脱却し、インターネットでサービスを提供しようと思い至るわけです。そうして先出のTACさんのCD-ROM教材を完全オンライン化して提供することにしました。
基本的なユーザインターフェイスはCD-ROMベースのシステムと同じです。ただサーバ上のサービスをブラウザで利用するためユーザID/パスワードでログインする仕組みなどを搭載しました。システムはこれまでのMacromedia DirectorからHTML/ASPに変更しました。サーバサイドのMicrosoft Windows NT4.0でIISを動かし、データベースとしてMicrosoft SQL Server 7を採用しました。ゴリゴリASP書きました。
こうして1999年、コンテンツもサービスも完全にオンライン化したサービスがスタートしました。当時の言葉ではこういうサービスを一般にWBT(Web Based Training)と呼称していました。
eラーニングの幕開け: KnowledgeLearning
2000年を境に、世の中のあらゆるサービスがインターネット化するという大きな波が起きました。「e」の時代です。様々の言葉の頭に「e」(=electronic)の文字が追加されました。eメール、eコマース、eガバメント・・・ もちろん教育も例外ではなく、こうして「eラーニング」という言葉が広く使われるようになりました。そして2000年を皮切りに教育が大きくネット化する、いわゆる「eラーニング元年」になると予言されました。
我々もその流れを受けて、TACさんで開発したWBTシステムを一般化、機能向上させ、eラーニングパッケージとしてリリースしました。正確には当初よりパッケージ化することを念頭にTACさんのシステムも開発を行っていました。こうして生まれたパッケージが2000年にリリースしたKnowledgeLearningです。
KnowledgeLearningは受講者がログインして学習する学習環境と、その学習結果を管理する管理者機能の2つが提供されました。TACさんのリリース時には弊社がデータベースを直に操作して行っていたような作業もKnowledgeLearningではブラウザ上の管理機能を操作することで、ユーザ登録や教科の追加や編集を行えるようにしました。
こうして誕生したKnowledgeLearningは様々な企業内研修でも利用されるようになりました。会社の沿革に記載されている会社さんでいうと鹿島建設さんに導入いただきましたが、他にもいくつかの大企業さんでご利用いただきました。当時は弊社のオフィス内にサーバのラックを組んで運用したり、お客様先のサーバルームのマシンにインストールさせていただきました。当時はイントラと言いましたが、今ふうにいうとオンプレミスですね。
さて、勘がいい方はお気づきかもしれません。先に紹介したKnowledgeLearningの機能は現在のKnowledgeDeliverと近いけど、一点大きく存在しない機能があることを。そう、教材作成機能がなかったのです。KnowledgeLearningは教材は別に作ったものをサーバにFTPして登録するという仕組みでした。
ちなみに当時は様々な会社さんからeラーニングシステムが提供されていましたが、そのほとんどはコンテンツ作成に関しては同じような状態だったと記憶しています。別途作ったコンテンツを登録するという流れでした。
当時の教材コンテンツの状況
2000年前後、eラーニングの教材コンテンツがどのような状況だったのかをご説明しましょう。
昔も今も、教材コンテンツは、インプット型とアウトプット型に大きく分けられます。インプット型とは知識を獲得するための教材で、本を読んだり講義を聞いたり映像を見たりするようなタイプです。アウトプット型とは獲得した知識を表出するもので、テストやレポートがこれに相当します。アウトプット型は大きな変化はありませんが、インプット型は時代によっていくつかのパターンがありました。当時の主なインプット型コンテンツの方式を下表に示します。
テキスト型 | 画面上にテキストだけを表示するもの。説明文章だけが掲示され、それを読んで理解する。黎明期から存在する型でシンプルだが、制作工数が低く汎用性がとても高いことから現在も見かける形式。 |
音声解説型 | テキストの表示だけでなく、テキストにナレーションが加わり説明を加える。 わかりやすく汎用性も高いことから現在でもよく見かける。 |
音声+スライド+指示動作型 | 音声解説型だけだと、単に音声を読み上げているだけで、テキストのどこを説明しているかがわかりづらい問題を解消するため、音声に同期した指指しやマーカーの書き込み、アニメーションをテキストの上に動かすことで教員が板書で説明しているのと同等の効果を狙ったもの。 弊社のパッケージでは先出のInstructNow!が相当する。 |
Flash型 | Macromedia Flashを使ったアニメーションを使ったコンテンツ。マルチメディア教材。画面を押すと音声やアニメーションが動いたり、パラパラマンガになっていたりと、リッチなコンテンツもある。開発コストは高く、一般のユーザが作るのは事実上不可能。 ちなみにMacromediaは先に説明の通りその後Adobeに。そしてセキュリティやスマホでの再生負荷、その後のHTML5の台頭で今はFlashは存在しない。 |
スライド+映像型 | 当時はまだネットワークの回線速度がさほど速くなく、マシンスペックも低かったことから、精細な映像を配信することはできず、映像はマッチ箱ぐらいのサイズにせざるを得なかった。そこで解説するスライド画面を画面いっぱいに表示し、その左上にマッチ箱程度のサイズで講師の映像を配信した。先生が説明している雰囲気を出しながら実際の講義もしっかり見せる工夫だった。 弊社のパッケージではPowerPointスライドを活用して映像型コンテンツを制作できるSeminarNow!という商品があった。 |
映像型 | ネットワーク回線が細いものの、全画面で映像を配信しようとするもの。ただ精細な映像を流すことはできないので、現在のような講義映像をそのまま流すことはできなかった。そこで講座の冒頭に先生からの挨拶などの一部のコンテンツでのみ利用された。 |
おおよそこんな感じのコンテンツの方式がありました。その中でも弊社のInstructNow!やSeminarNow!は、音声や動画を使って指さしや書き込み、アニメーションといった動きのあるコンテンツが簡単に作れるし、低速度の環境でも再生できると一定の評価をいただいており、弊社のことを「指の会社」とまで呼んでいただく方もいらっしゃったぐらいでした。
今はブロードバンドという言葉が死語になりつつあるぐらいブロードバンドが当たり前で、ユーザの習慣としてもスマホで映像を見ることになんの抵抗もないことから映像がコンテンツのデファクトスタンダードになっています。今から思えば、当時は当時でコンテンツ、色々工夫していたんですよねぇ・・・
そして、KnowledgeDeliver誕生へ
LMSの基本パッケージとしてブラウザで学習や管理が行えるKnowledgeLearningが誕生し利用者数も増えてきましたし、教材制作ツールとしてInstructNow!やSeminarNow!といったPowerPointに音声や動画に指示動作を加えてわかりやすい教材コンテンツ作りができる環境も整備されてきました。ただ、これって分離されていて、作った教材をKnowledgeLearningに登録しようとするとFTPで上げるしかなかったんですよね・・・ InstructNow!やSeminarNow!はインストールして使うアプリケーションで、環境設定するのに一手間かかるし、作ったコンテンツのファイルを探してアップするのはパソコン操作に不慣れな方にはハードルが高かったのです。
弊社のこだわりの一つ「教材制作をユーザサイドで行う:UGC」=User Genereted Contentsは、教材そのものを簡単に作れても、その後のファイルの操作が煩雑で真の意味でUGCじゃなかったのです。
そこで、この2つ、KnowledgLearningとInstructNow!やSeminarNow!のオーサリングツールを合体させればいいんじゃないか? 全てがブラウザベースで完結するようにすればいいんじゃないか?
I have a KnowledgeLearning. I have an InstructNow! / SeminarNow!. んー KnowledgeDeliver
うぉっほん。PPAPをお借りしました。
全てをブラウザベースで完結したい・・・そういう思いからKnowledgeDeliverを開発しました。そしてパッケージ名もKnowledgeLearningからKnowledgeDeliverに変更しました。Learning=学習をするという受講者視点だけでなく、Deliver=届けるという制作者・管理者の視点を込めました。特徴を明確にするためにLMS(=Learning Management System)ではなくLCMS(Learning Contents Management System)というカテゴリに分類したりもしました。
(今はLMSがこの3機能を当たり前に有しているので、あえてLCMSという単語を使う必要はなくなりました)
こうして、教材を作る・学習する・管理する、という現在に至るLMSの基本機能を獲得したのでした。
ちなみに弊社のパッケージ名は「Knowledge Deliver」のように単語の間にスペースを入れるのではなく「KnowledgeDeliver」とスペースを入れずに続けて書くのが正解です。これは検索性を高めるための工夫です。
技術的にはウェブ技術が進み、当時はActiveXコンポーネントというInternet Explorerから直接Windowsを操作できる環境が提供されており、これを使って完全にオンラインでSeminarNow!やInstructNow!のようなPowerPointに映像や音声を付加したコンテンツを制作できるようになったのでした。
弊社のKnowledgeDeliverは突如発生した製品というより、1995年の創業以来、連綿と続く流れの中で、その時々の状況や環境に変化に対応しながら進化してきたことがお分かりいただけたのではないでしょうか。
老舗の鰻屋のタレが継ぎ足し継ぎ足し使われているのに似てますが、我々はこのタレを守りつつも、それぞれの時代にあった提供方法、調理法、調理器具、味付け、盛り付けで提供しているのです。
では、次回、KnowledgeDeliver7について紹介できれと思っております。
(2022/12/23追記:こちらから続きがご覧いただけます)