現場で教材を作る”こだわり” 〜 生成AIによる教材自動生成への系譜

By | 2024年6月12日

先月5月の上旬に開催されたEDIX東京2024では、弊社はOpenBadge 2.0と3.0/VCに対応したデジタルバッジソリューションSkill+と、生成AIによる教材制作のアシスタントAIであるTeacher’s Copilotを中心に紹介しました。いずれも多くの方に触れていただき、ご好評いただきました。ご来場いただいた方に感謝申し上げます。ご来場、誠にありがとうございました。

今回のブログでは、その中でもTeacher’s Copilotを取り上げたいと思いますが、ちょっと角度を変えて、Teacher’s Copilotの説明そのものというより、どういう背景でこのサービスをリリースしたのか、過去からの弊社の教材に対する取り組みを交えてご紹介します。

教材をどのように準備するべきか?

一般的にeラーニングを提供しようとすると、システムと並び準備をしなければならないものはコンテンツ=教材です。受講者の方々が日々勉強を進める上でとても重要な要素で、筋道が通っていて正確であるのはもちろん、分かりやすく、学習したくなるような内容や構成であるのが望まれます。

この教材をどのように用意するか? 

弊社は「学びの架け橋」を標榜し、教材を教育機関の先生やご担当者様自身が作成するというのを提案し、それが弊社の特色の1つとなっています。

「弊社のスタッフには先生と呼ばれる人は1人もいません。お客様ご自身で教材を制作なさることを支援しております」

「そのために、教える人と学ぶ人を結ぶ「学びの架け橋」に徹しています」

このように伝えております。

事実、一部の無償教材などを除き、弊社が教材の企画・制作を行なって、弊社のラインナップとしてお客様に提供することはありません。

お客様の中にいらっしゃる先生や教育のご担当者様はその領域における教育のプロフェッショナルであり、そのお客様のノウハウを教材にダイレクトに反映させるのが理にかなっています。それを我々のようなその領域に精通していない者が教材づくりを行ったとしても、見た目はいいのかもしれませんが教育的なクオリティを引き上げることは難しいことでしょう。

「いい教材は教育ノウハウをお持ちの先生や担当者によって作られる」

そのように判断し、現在までこの姿勢を貫いています。

では、どうしてそのように思い至ったのかを探るべく、時間を29年ほど前に巻き戻してみましょう。

大量の教材をどのように準備するか/黎明期の対応

弊社の設立当時の1995年、弊社は最初のお客さんである明光義塾さん(明光ネットワークジャパンさん)のM-STATIONという在宅学習システムを開発しておりました。詳細は過去のブログをご覧いただくとして、M-STATIONは中学生向けの在宅学習システムで、中学生に向けた英語・数学・理科・社会の説明教材やテストなどの教材を組み合わせ、先生の指導によって学習を進めるという、当時としてはなかなか画期的なシステムでした。

このサービスを提供するためには、システム開発だけでなく、教材開発が不可欠です。中学生向けの英語・数学・理科・社会の教材を網羅的に制作する・・・ 考えただけでも、その数は膨大ですし、大変だというのが分かります。これは立ち上がったばかりのベンチャー企業にとっては至難の業です。

これをどのように解決し教材制作を進め全ての教材を準備しようか? ということで、創業者「はが」は考えたわけです。明光義塾さんには社員の方や教室にたくさんの先生方がいらっしゃる。この先生方に手分けして教材を作ってもらうのが品質と量を保って制作できる唯一の方法では? そう思い、教材編集システムを作りました。

サーバ上に教科・章・単元・学習内容・学習項目といった教材の構造が定義されており、それぞれに必要な教材の枠が設定されています。先生方が教材制作なさる各端末にオーサリング用のソフトがインストールしてあり、このオーサリングソフトを使ってこの枠に教材を作っていくのです。先生方が教材を作ると、一度ローカルに蓄積された教材情報がインターネットで非同期で送信され、サーバに蓄積されるという仕組みでした。

テスト問題は登録がそれほど難しくはありませんが、検討を要したのは説明用の教材です。当時は「マルチメディア」なんて言葉があって、音声や映像やアニメーションなどの表現力豊かな複数の手法で表現するメディアがもてはやされていました。テキストだけの説明というのでは魅力は半減するので、音声やアニメーションを追加した教材を提供しようと思っていました。

そこでFlex Textというフォーマットの規格を作り、Flex Textの編集ツールを開発しました。今でいうパワーポイントのようなツールで、ステージ上の任意の場所にテキストや画像やボタンを配置できるようなオーサリングツールでした。先生方には、このFlex Textを使って教材を作成いただきました。

このFlex Textには1つユニークな仕組みが搭載されていました。音声の録音とアニメーションを追加できる機能です。

オーサリングツールの録音ボタンを押すと録音が開始され、そこに先生方の解説を録音します。さらに録音しながら、もしくは一度録音した音声を再生しながら、マウスでカーソルを動かしたり、アイコンをスタンプのように画面上に押すと、そのタイミングでカーソルが動いたりアイコンがスタンプのように表示されたりします。

例えば紙教材を使って先生が生徒に1:1で教えようとすると、先生はしゃべって説明しながら指やペン先で紙教材を指していると思います。そして重要なところがあると、書き込みをしたり、丸をつけたりすることでしょう。これを当時まだ回線もパフォーマンスも良くないパソコン・インターネット環境で再現するために、このような活動を丸ごと収録してベクター情報として記録し、再現するようにしました。

これが後に「指示動作」と呼ばれるもので、後の弊社の教材制作の象徴的なアイコンになりました。

ツール化

この「指示動作」の概念は、この後のWebの世界になっても継承されました。

まずリリースされたのはInstructNow!というオーサリングツールで、これは先のFlex TextをベースにWeb化したものです。任意のHTMLを取り込んで、HTMLの上に指示動作のレイヤを追加し、静的なページに音声と指さしなどのアニメーションを追加したものです。西暦2000年前後は動く教材というとFlashなどで制作会社がコストをかけて作り込むことが多かったのですが、HTMLに先生の声と指さしの指導が追加できるというのは、なかなか画期的でした。

その後、コンピュータの性能向上とネットワーク帯域がだんだん広がってきて、動画の配信も〜フルスクリーンではなく小窓での再生でしたが〜できるようになり、それに合わせて新たなオーサリングツール、SeminarNow!をリリースしました。

この時代もよく見かけた教材形式に動画とスライドを組み合わせた教材がありました。小さめの動画が流れ、その動画のタイミングに合わせてスライドが切り替わるというものです。SeminarNow!はこの基本機能に加えて、Flex Textの考え方を取り入れ、指さしや書き込みを実現しました。あたかもセミナー講義を録画して指さしや書き込みを含めて再生しているような再現性を実現したのです。

現在であればこの図でいう右上の「動画のみ」で実現できるのでしょうが、当時はそこまでネットワーク帯域とコンピュータの性能が追いつかず、フルスクリーンで映像を配信するのはかなり困難でした。そこで指の動きをベクター情報として採取し、データ量を抑えて再現性を高めたのでした。

このInstructNow!とSeminarNow!は当時お客様からいくつも反響をいただき、様々な教育現場でご利用いただき、多くの教材が作られました。この頃、弊社は「指の会社さん」というふうにも言われたりしたものでした。

「指」の会社さん

ツールからLCMSへ

2000年当時、eラーニング元年と言われた時代、様々なサービスがWeb化され、教育もWebブラウザで学ぶ時代が示されていました。InstructNow!やSeminarNow!のオーサリングツールは出力はWebで表示できましたが、オーサリングツールそのものはインストールをしてアプリから利用するような作りでした。

当時はeラーニングシステム(LMS)としてKnowledgeLearningというLMSをリリースしておりました。ここで利用する教材はInstructNow!やSeminarNow!を使って作られ、作られたコンテンツのファイルをKnowledgeLearningのサーバのフォルダに格納していました。

これだと誰もが利用するというより、教材制作をする人がパソコンに専用ソフトをインストールして教材制作し、制作した教材ファイルを配信用サーバに配置するという手間が発生しました。誰もが教材を作って配信できるというわけにはいきませんでした。これを避け、誰もが手軽に教材作りができるようにとInstructNow! / SeminarNow!を完全にWeb化しようということになりました。

LMSであるKnowledgeLearningに教材制作・管理のWebツールであるLCMSを追加して生まれたのが、現在もあるKnowledgeDeliverです。「ラーニング」という受講視点から「デリバー」という作り手/配信側の観点にし、そこで広がる世界観を想って命名しました。

InstructNow!やSeminarNow!、もっと源流を辿るとFlex Textの考え方はKnowledgeDeliverの「スライドオーサリング機能」にDNAが引き継がれ、今なお進化発展を続けています。

KnowledgeDeliverの登場から早20年以上経過しました。この間に多くの教育機関や学校、企業で、先生や教育ご担当者様が制作した教材の数は膨大なものになっていると思います。

「弊社のスタッフには先生と呼ばれる人は1人もいません。お客様ご自身で教材を制作なさることを支援しております」

これまで多くの方にご利用いただいたのは、この信念を持ち続け、どうやったら先生や教育ご担当者様がクオリティの高い教材を作れるのかを追い続けたことによる成果だと思っております。

LCMSの発展

さてそんなKnowledgeDeliverのスライドオーサリングですが、ご利用なさっている方々の声を聞くと、一番ハードルが高いとお感じになっているのが、音声の吹き込みでした。正しいイントネーションで噛まずに話すのは緊張するし、何度も繰り返し練習して吹き込みので大変なんですよ、というご意見をよく耳にします。

そこで、音声合成を利用して、テキストでセリフを入れておくと、自動で音声で喋ってコンテンツ化してくれる音声合成オプションを開発しました。

この音声合成オプションにより、教材制作で手前がかかる音声ナレーションの録音を自動化し、教材制作者の負担を大幅に削減し、教材の品質も一定に保つことができるようになりました。

詳しくはこちらのブログをご覧ください。

教材制作者に寄り添い、さらに価値を引き出す

創業時期から現在に至るまで、現場で教材制作をなさる方に寄り添って、より便利に、より表現力豊かに、より手軽に作れる環境を弊社が追い求めてきた様子を経緯を含めて紐解いてみました。

「いい教材は教育ノウハウをお持ちの先生や担当者によって作られる」

この信念に従ってFlex TextからInstructNow! / SeminarNow!、LCMSとしてのKnowledgeDeliver、そして音声合成による制作手間の削減と進化してきました。これまでも、教材制作に携わる先生や担当者に寄り添い、より便利に教材作りに取り組んでいただくべく進化してきました。

そしてTeacher’s Copilotにより、先生や担当者の教育コンテンツを核に、様々に生成される教材を取り入れることで、教材制作に関わる業務量を劇的に減らしつつも、従来では実現できなかった多彩な教材を提供できる環境が整備されました。

創業以来掲げている「学びの架け橋」をさらに押し進め、これからも教材制作に関わる方に寄り添って参ります。

今回は詳しく紹介しておりませんが、このTeacher’s Copilotにご関心のある方はサイトよりご確認ください。

おまけ

まだ梅雨前というのに暑い日が続いています。梅雨の前に夏が来たような雰囲気さえあります。

私は夏になると毎年ボサノヴァの曲をよく聴いています。1950年代のブラジルで産声を上げた新たな波:ボサ・ノヴァ(ポルトガル語でBossa Nova、直訳すると「新しい傾向」)はアメリカに持ち込まれ、白人テナーサックスのスタン・ゲッツにより世界中に広まりました。Getz/Gilbertoというアルバムがとにかく有名です。

世間的にもおそらくそうだと思いますが、どういうわけか夏とボサノヴァの相性は抜群で、僕は暑くなると、レコードやCDやiPhoneでボサノヴァをたくさんかけています。

今回はあまりの暑さに、久しぶりにボサノヴァでも吹くかと吹いた曲、アントニオ・カルロス・ジョビンの”Meditation”です。

参考