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「紡ぎだす言葉」と「つつけば出る言葉」~京都教育大学附属高校の授業から~

哲学者テオドール・アドルノの文章は、非常に難解だということで有名で、その理由を彼は「難解なことは難解な言葉でしか表現できない」という旨で説明したと言う。

は!・・・いきなり柄にもない書き出しをしてしまって、自分で自分にうろたえている研究員・岡田です。

 

言葉って難しいですよね。私は以前は理数系の授業者でした。(文系出身者のくせに。)

言葉のセンスを、言葉で説明する本気の文系の授業ができる先生方に憧れていました。私には無理だな、と。

 

特に、表現のスキルって、伝えたい「内容」が理路整然とするだけで伝わるものではなく、なかなか箇条書きに明示できないものが背景にあると思うんですよね。

大学院で論理学とか数学の哲学を研究していた人間として、「論理的に語らないと人には通じない」という紋切り型の表現はあまり好きではありません。まず論理的って、カントの表現を借りればア・プリオリで分析命題ということで、情報量は一切増えないものです。(つまり、「独身者には妻がいない」という文は論理的に正しいが、馬鹿らしいほど何も言っていない。)

むしろ、根拠をもって「合理的に」語ることの方が大事です。(論理的と合理的のちがいは調べてみてください。)

シンプルに言って、論理的ではないけれど、人が納得する言動っていっぱいしていますよね? 人間の社会って、論理的ではないことでいっぱいです。

 

さて、そんなことを考えさせられた授業を見学できたので、それを報告します。

 

2018年12月6日 京都教育大学附属高等学校での佐古先生の公開授業でした。

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こちらは、京都教育大学の附属の各学校の先生および京都教育大学の先生方が授業見学に来られており、私もAIツール『トレパ』のサービス設計者として招かれました。

授業の構成としては2部構成でした。2コマ連続の授業で、1コマ目は2コマ目のディベートのための準備です。

 

普段、増進堂の英語科検定教科書(http://teachers.zoshindo.co.jp/textbook/)を使用して授業をしているようなのですが、その本文の中で動物実験がテーマの文章が出てくるとのことでした。

生徒さん達は英語の授業でその内容に触れ、また佐古先生から参考資料も渡されて、自分たちなりにこの社会的な問題について考えるようになっていったという背景があります。

そこで、そのまとめとして、ディベートを英語で行い、自ら発信したい事柄を英語で表現することに挑む授業が設定された、という流れです。

その中で、1コマ目の「準備」では、各グループがディベートでより説得力を持つための論点を話し合って決めることと、ディベート中に相手側に対して「反駁」したり「ポイントを確認」したりするための定型的な英文を『トレパ』で練習することに充てられていました。

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つまり、論点を理解し、確認し、反駁するために必要な定型文を、口をつつけば自然に出てくるくらいまでにトレーニングします。

その定型文までたどたどしいと、考えながら話すというディベートというアクティビティ自体に集中できなくなります。頭のリソースをなるべくディベートに割り振りたい。そのために、圧縮できることは事前に圧縮する、という目標だと理解しました。

 

これは、私がよくセミナーで提案する事柄と相似だと思います。

トレーニング

私の提案は、AI(人工知能)という技術の限界点を見据えた上でのものです。指導場面をTeach、Training、Activitiesとに大別したとして、現在のところAIが教育に入り込むのはTrainingの部分であろう、というものです。(Teachについては異論があるかもしれません。ここも自動化できると主張する方もおられるでしょうが、それは別稿で。)

 

譬えて言うなら、裁判というActivitiesで弁護士の口からスラスラと法律や判例が出てくるためには、やはり六法や判例を頭に叩き込むこと(Training)が必要だと思います。あるいは、運動でたとえるなら、バスケットボールの試合と、基礎トレーニングのような関係でしょうか。

TrainingがActivitiesの基礎となり、ActivitiesがTrainingの目的となることによって、充実した力が身につくように思います。

 

もちろん、授業内で「つつけば出てくる」状態にするというのは、「適した状況で、適した英文を発話できる」ということであって、「発音の流麗さ」とは別の事柄です。しかし、発音が流麗になるまでできるようになっていることは、大きな支えになっていると思います。計算で、最初はたどたどしく繰り上がりのひっ算をしていた子が、無意識に「手が勝手に動く」くらいまでトレーニングすることで、頭のリソースを立式や見直しにつながることに似ているように思います。

 

・・・と、ここまで書いておいて何なんですが、面白いことが起こりました。

私が授業見学をさせていただいた中で、注目をしていた生徒が2名おりました。

1名は、トレパで一生懸命トレーニングしていた男子生徒で、トレパでの発音信頼度も非常に高いものでした。

もう1名は、トレパでのトレーニングを軽く流している男子生徒でした。

 

当然ながら、前者の生徒さんはディベートの時も前のめりで意見を言おうとしていました。トレーニングした定型文はもちろんのこと、それ以外に「言葉を紡ぐ場面」でも一生懸命伝えようとしていたのが印象的でした。

一方で、後者の生徒ですが、この子も伝えようという意欲がすごく、闊達な議論がなされていました。ただ、めちゃくちゃブロークンな英語です。(ほとんど、英語としては崩壊していたかと思います。)また、内容もそこまで深いとも思いませんでした。でも、その熱意が伝わってきて、思わず相手チームの生徒も聞き入るんですよね。

私もその場にいて、引き込まれて感心し通しでした。

 

まあ、当たり前ですが、発音の流麗さと伝える意欲というのは、同一視できないですよね。良い実例を見ることができましたw

 

しかし、これも一般論として提示できるかな、と思ったことは、ディベートの最中であっても「事前に構築した英語を“発音”しよう」という傾向は強いな、ということです。間違った英文を言うことにたいする抵抗感でしょうか。(私はとってもその意識が強いです。ですから、英会話は極力しない生活をしています。)

 

・定型文を正確に発音できるようになる

・状況に応じて適した定型文を言える

・伝えたいという意欲をもって言葉を紡いでいく

これらが本来は相まってスピーキング力に結実していくのでしょうが、トレパはまだ最初の項目にしか寄与できていないかもしれません。(もちろん、有益な情報提供であったり、合理的な内容というのは前提の上ですが。)

 

しかし、スピーキング力の要素とは何かを改めて考えさせられる良い機会だったと思います。

私たちのサービスが、スピーキング力を向上させるための、本当に「一」助となれば幸いです。

 

 

「なぜ、この製品ができたのか?」のラーニングが「欲しい!」を創る

最近、雑誌のLEON(https://www.leon.jp/)を読む機会があり、掲載されている腕時計が2・3桁違うことに思わず「神様の、バカ」と呟きたくなった研究員・岡田です。

皆様、愛する人へのクリスマス・プレゼントは決まりましたか?

岡田は新型のiPad Proの3点セット(本体+キーボード+Pencil)がいいなあ。

 

さて、今日は「付加価値」ということについて考えてみたいと思います。

 

◆「商品」の価値は、誰が創りだすのか?

『新・観光立国論』の中でデービッド・アトキンソン氏が印象深いことを記しています。

京都の二条城に観光に訪れても、ただ畳の間が展示されているだけで、そこでどれほど大事な歴史的出来事(大政奉還)が行われたところなのかという説明がない、と。興味を持たせられないのであれば、せっかくの観光資源もその価値を発揮できない、というのです。

これは、かなり考えさせられる事柄だと思っています。

ナイアガラの滝は世界的な観光名所ですが、これは人工的には創れませんよね?

その場に行くだけで、その迫力に圧倒されると思います。まさにSight-Seeingに価値があります。

ところが、文化的・歴史的なものは、人々の営みの長い時間の流れの中で培われていた価値があるのですが、それはちゃんと価値づけをしていかないとその価値が発見されないまますたれていく可能性があります。

私の家の近くに、沖田総司終焉の地と伝えられる場所があります。単にその碑だけがポツンとあるだけなのですが、幕末の歴史が好きな私からすると、非常に感慨深く、引越したばかりの時には、何人もの友人に紹介しました。

このように、物理的な場所にどのような思いをもって価値を見出すかは知識・嗜好に大きな影響を受けます。同様に、建物の柱の傷でも「応仁の乱の時についた傷だ」と説明されたり、同じ茶器でも「千利休が愛用していたものだ」と言われると、今まで見ていたものが急に価値を持ち始めます。つまり、価値は私たち一人ひとりの主観が、ある知識を得た時に「創り出す」ことがあります。情報が共有されて初めて価値が生まれるものでもある、と言えます。

 

■自己完結しないeラーニング「修了証」の可能性

テレビなどで、レストランや地域の建物などを芸能人が紹介していく番組がよくありますよね。

王道ともいえるこのような番組が多数あるということからも、視聴者が「知識を得たい」「知らなかったことを知りたい」という欲求を潜在的に持っていて、かつ、それが紹介された側もメリットがあるということの証左だと思います。

「ご当地検定」というものがブームになったこともありましたが、人は「知る」欲求をもち、またそれを「褒められる」ことを求めます。

その延長に、自ら情報を発信したいという欲求を持つ場合があります。特にSNSが全盛の現代、自らインフルエンサー(情報を拡散する人々)となろうとする人がいます。その人たちは、情報拡散のためであれば身銭を切り、またその情報拡散自体に価値を見出し、その活動の結果、スポンサーやファンがつきます。インフルエンサーが取り上げた場所・物産・サービスには注目が集まります。もちろん、場合によってはステルスマーケティング(通称「ステマ」)と言われて批判されるので注意は必要なのですが・・・

ここで、知識を得る方法として、テレビで取り上げられること以外にネット上のインフルエンサーというチャネルがあることを指摘しました。インフルエンサーの強みは、フォロワーが自らの嗜好の方向性をそのインフルエンサーに重ねているということです。嗜好が重なっている(あるいは「重ねている」)からこそフォローしているので、彼・彼女が勧めたものは受け入れやすいというとこともポイントでしょう。

さて、eラーニングに目を転じてみましょう。

個人でeラーニング講座を受講できるサービスがいくつかあります。SchooやUdemyといったサービスは、自らが講座を選び、学ぶ。しかし、「学びたい」と欲求はそれで満たされスキルアップできるものの、その学びをフックにして自らインフルエンサーになろうという動きにはなかなかならないと思われます。つまり、学びが自己完結していて、ソーシャルなところに転じることが少ないのです。

その点をクリアしたeラーニング講座があります。

それが、Nアカデミー(https://n-academy.jp/)が提供する『温泉ソムリエ認定講座』です。

講座名に「認定」という表現があるように、「温泉ソムリエ」という資格があります。「温泉の知識」や「正しい入浴法」を学ぶことで得る資格で、修了証はスマホで表示することができ、温泉宿などで修了証を提示すると特典が受けられることも。

資格なので名刺に肩書として載せる人もいる。

通常、個人向けeラーニングというと自己完結型が多いものです。企業での人事研修であれば、eラーニング修了がそのまま人事考課に反映されることもあります。このような「次の発展」が個人向け講座では少ないというのが実情です。しかし、言い換えると、自己完結にならず社会への発信・拡散ができる発展型eラーニングには大きなビジネスの可能性があるとも言えます。『温泉ソムリエ認定講座』であれば、まず受講者自身が全国の温泉をコンプリートしたいと思うことで現地に赴くことが考えられます。その際、知人を誘うこともあるでしょう。知人に知識を拡散することで、その知人が今度は温泉ソムリエを取得するかもしれません。直接誘わなくとも、SNSでの拡散も同様の効果を促すことがあります。

■商品の価値は、「その裏側・壁の向こう」を見せることで高まる

クールジャパン戦略が高まる中、注目されているプロダクト・デザイナーがいます。大阪に本拠地を持つ有限会社セメント・プロデュース・デザイン(http://www.cementdesign.com/)の社長である金谷勉氏です。彼らは全国各地で、伝統工芸の職人たちによるセミナーを支援しています。

100円均一に行けば食器は手に入る時代。なぜ、備前焼の器に数千円を出す必要があるのでしょうか。

一般的な消費者の感覚からするとそこに価値を見出せないかもしれません。しかし、金谷氏によると、「売り場にある商品だけ見ても分からない価値がある。それを、作り手の技術・知識を知ることで理解できるようになる」とのこと。売り場ではない「つくる現場」(裏側・壁の向こう)を見せる営みをしているのです。いわば、「購入者に目利きできるようになってもらう」活動であり、「価値がわかる購入者を育てる」活動であるとも言えます。

実は、私も金谷氏が主催するワークショップに参加したことがあります。備前焼の職人が工程を紹介するだけではなく、他の地域の器との違いなども説明してくれて、私自身が多少の蘊蓄を語れるようになりました。それ自体が楽しいし、備前焼を見かける度にその時の知識がよみがえります。

このような「学び」と「購買」を結びつける新しいジャンルがオンラインで求められているのではないでしょうか。Web広告でも、新しい流れがきています。例えば、検索エンジンで「肩こり」「原因」と調べてみると、改善するための運動法や栄養素を学ぶことができるサイトにとびます。最後まで読んでみると、サプリ会社提供の記事だということがあります。

文化・技術保存の立場からeラーニングとして保存すると同時に、受講者を通じて地域の伝統・文化・歴史のアンバサダーを育成する。それがそのまま伝統工芸などの購買層を育てていくことになる。そのような活動が求められているのではないでしょうか。