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「CBT」と呼ばれるテスト形式をご存知でしょうか?
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、1つの場所に集まって一斉にペーパーテストを受ける試験の実施が難しくなりました。 国内でも資格・検定試験が次々に中止・延期に追い込まれ、大学入試や採用試験などにも大きな影響が出たことは記憶に新しいと思います。
こうした従来の筆記試験に代わる新しいテスト形式として今、急速にニーズが高まっているのがCBTと呼ばれるオンライン試験です。
このページではCBTとは何か?というところからそのメリット、企業や学校における導入事例なども含め詳しくご紹介していきます。
CBTとはComputer Based Testingの略で、コンピュータを利用して実施する試験のこと。いわゆる「オンライン上で受けられるテスト」のことです。
もともとは海外発祥の試験モデルですが、日本でも従来の筆記試験に代わる新しいテスト形式として注目を集めています。とくにコロナ禍では、密を避けることができる有効な試験方法として多くの資格・検定団体がCBTを導入しました。 その流れはテレワークが進む企業や休校を余儀なくされた学校にも広がり、採用試験や社内試験、模試や校内テストにCBTによるオンライン試験を導入する動きが加速化しています。
CBTは受験申込から試験実施、合否通知まで、すべての工程をインターネット上で行うことができます。 受験者はパソコンやタブレットに表示される問題に対し、マウスやキーボードを用いて解答していきます。スピーキング問題がある場合はマイクに音声を吹き込むことで解答できます。 問題用紙やマークシートに鉛筆で記入するこれまでの筆記試験とは異なる、まさに次世代の試験モデルと言えるでしょう。
ひと口に”コンピュータを使った試験”と言っても、CBTには定められた外部会場でテストを受ける「テストセンター型」と、自宅等の好きな場所でテストを受ける「自宅型」の2つがあります。
テストセンターとは、CBTを受験するための試験会場のことです。テスト事業者が運営する専用の施設やパソコンスクールが主な会場となります。 さまざまな資格・検定、大学の語学入試、企業の採用試験などで活用が進んでおり、受験者は主催者が指定したテストセンターに出向き、現地の端末を使用してテストを受けることができます。 試験の日程が複数設定されている場合が多く、また会場内も受験者1人1人のスペースが十分に確保されているため安心して試験を運用・受験できます。
自宅受験型は、自宅など任意の場所で行われるオンライン試験です。企業や学校が独自にCBT試験を実施する際にこの自宅型を選択するケースが多いようです。 自宅型ではカンニングのリスクやなりすましによる不正受験などが懸念されていましたが、最近ではAIによる本人認証システムや受験中の不正行為を感知するシステムなどが次々に開発され、実装が進んでいます。 コロナ禍により自宅型の導入ニーズは増加傾向にあり、今後も拡大するものと考えられます。
「テストセンター型」を狭義のCBT、「自宅型」をWBT(Web Based Testing)やIBT(Internet Based Testing)と呼び、分けて考える場合もありますが、このページでは広義のCBTとしてコンピュータを使ったテスト形式全般を対象にご紹介していきます。
従来の筆記試験では、試験の度に「受験票」や「問題用紙」「解答用紙」を準備する必要がありました。そのため作成、印刷から保管、配送、回収、廃棄に至るまで、大きなコストがかかっていました。
コンピュータによる試験のため紙はほとんど使用しません。そのため紙の管理に伴う手間も人手も少なく済み、コストも大幅に削減、環境面にも配慮できます。 また、システムに問題を登録しておけば、毎年行う資格検定や社内試験の問題を、少ない工数で作成することも可能です。 紙に関するコストだけでなく、試験実施に伴う会場費・人件費を削減できる点も見逃せません。開催コストを大きく抑えることで受験料の引き下げができれば、より多くの方に受験してもらいやすくなる可能性もあります。
従来のペーパーテストでは、試験後の「採点」と「結果集計」を人力に頼っていたため大きな労力がかかっていました。当然ながら合否を発表するまでには一定の時間がかかっていました。
試験終了後、解答データは直ちにサーバーに転送され、採点処理・集計作業が瞬時に完了します。 コンピュータが素早く正確に採点・集計を行うため、運営側は時間やコストを大幅に削減でき業務効率化につながります。 試験によっては終了後即時に合否やスコアが表示されるため、合否通知発送も必要なし。受験者にとっても長く待たされる不安がなく、すぐに結果が分かるのはうれしいですね。
受験者データの管理や試験結果の集計なども従来は手動で行っていました。そのため試験データを活用した分析・評価・活用などを行うのも一苦労でした。
受験者の情報はもちろん、合否や試験結果などもすべてデータで一元管理できます。 特定の条件に基づくデータ抽出も自由自在。たとえば、社内試験で合格点に達していない受験者を選別し、研修を再受講させるといった使い方も簡単です。 また問題ごとの解答時間や正答率といった、筆記試験では得ることのできない様々なデータを取得することにより、データに基づいた形成的評価や分析活用が可能となります。
これまでの筆記試験は文章や図表を使った問題がメインでした。一部語学試験などで音声が使用されることはありましたが、基本的には文章題にマークシートや記述式で答える形式のため、問うことのできる内容に限界がありました。
CBT試験は音声や動画による出題も可能。さらには、画面上で操作をさせる問題も出題できます。こうした出題表現の広がりはCBTの特徴であり、メリットと言えるでしょう。 主催者にとってはこれまでなら考えられなかった新しい能力試験も実施できるようになりますし、受験者にとっては自分の能力をはかる新しい指標を得る機会が増える可能性があります。
筆記試験の場合、問題用紙や解答用紙の取り扱いにはどうしても人の手が入ります。これらは事前に会場へ送付する必要があり、関係者が問題を事前に見ることができてしまう点や、受験後に回収した解答用紙を紛失してしまうなどのリスクがありました。
試験問題は受験者のパソコンやタブレットに受験直前にダウンロードされるため、保管管理の手間や漏えい・紛失リスクはゼロ。問題や解答は暗号化されてインターネット上で送受信されるため、セキュリティ的にも安全です。 企業や学校にとってセキュリティレベルの高いCBTのメリットは大きいでしょう。受験者ごとに出題問題を変えることもできるため、カンニングのリスクも減らすことができます。
従来の筆記試験は、試験会場や試験日が限定されていました。たとえばある資格検定の場合、試験日は年に2回、各1日のみの設定で、会場も都市部を中心とした開催でした。そのため、試験のタイミングが合わない方や遠方にお住まいの方は受験が難しいケースもありました。
テストセンター型のCBTの場合、受験者は試験会場を自分で選択することができます。 CBTの普及によりテストセンターは増加傾向にあり、全国各地に300ヶ所以上のテストセンターを配置しているところもあります。試験日も一定期間の中から受験したい日を選ぶことができますし、さらには試験時間まで選択可能です。 コロナ禍に進んだこうした傾向は今後もさらに拡大すると考えられ、主催者にとっては均等な受験機会の提供や受験者増加、受験者にとっては利便性向上というメリットがあります。
企業が行う社内試験も1つの場所に集まって一斉に筆記試験を受ける形が主流でした。そのため企業は試験日に地方の社員も含め一斉招集する必要があり、その分の業務機会損失や出張費などのコストが課題でした。一方、学校や塾が主催する校内模試には不登校の生徒や遠方の生徒が参加しにくいといった問題がありました。
企業や学校が独自にCBT試験を実施する場合、受験者は地方の営業所やサテライト校、あるいは自宅などで受験することも可能です。 こうした自宅型のCBTの場合、受験者の試験へのハードルは格段に下がりますし、主催者側もより多くの人に低コストで効率的に受験機会を提供できます。 コロナ禍で自宅型のニーズは高まっており、受験者が自分の好きなタイミングに好きな場所で受験できる点はCBTの最大の強みと言えるでしょう。
自然災害や悪天候で試験が延期・中止となれば受験者・主催者共に大きな影響を与えます。また、2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、1つの場所に集まって一斉にペーパーテストを受ける試験の実施自体が困難になりました。このように従来の筆記試験には非常事態に弱いという弱点がありました。
CBTの進化版としてCAT (Computerized Adaptive Testing:個別最適型テスト)があります。 CATは、「受験者の理解度に応じ、出題する問題をアダプティブに変更することができる出題形式」です。 受験者1人1人に最適な問題を算出、出題することで、より少ない問題数でより正確に受験者の能力を測ることができます。 TOEICはCATを採用することで試験時間を2時間から1時間に短縮することに成功したと発表しています。
また海外では、CBTによるメリットを活かし、特別な支援が必要な学生に対しアクセシビリティ向上のための工夫がなされています。
たとえば、ユニバーサルデザインの採用、テキストの読み上げ機能、マウスの使用が困難な学生に向けキーボードで解答可能といった具合です。
このようにCBTはコンピュータによる効率化だけでなく、「学習の個別最適化」というここ最近の大きな流れの一環としても捉えることができます。
一方、CBTにおけるデメリットとしては、「コンピュータ操作に慣れていない受験者は実力を発揮できない」可能性が挙げられます。
CBT試験はオンライン上で行われますので、パソコンやインターネットの扱いに慣れているかどうかによって結果に差がつく可能性もあります。
そのため、CBTの導入にあたっては、対象者にICTを活用した教育に慣れておいてもらうことが大切です。また、CBT試験の流れや操作方法がわかる動画などを準備しておくと受験者の不安を払拭できるでしょう。
一般的に試験におけるリスクとしては、問題漏えいや紛失、試験問題の持ち出し、替え玉受験やカンニングなどがあります。
CBTでは、試験問題はインターネット回線上で送受信されるうえ、回線上のデータはSSL技術を用いて強固な暗号化が施されているため、漏えいや紛失のリスクはきわめて低くなっています。採点も試験終了後に自動的におこなわれるため、採点者による人為的なミスも発生しません。また、CBT試験を受ける端末について、ショートカットキーを無効化したり、試験問題以外のプログラムや画面をブロックすることにより、問題の持ち出しや不正操作を防止できます。
試験前にPCカメラをつかった「顔認証」で本人確認をおこなうことも可能です。あらかじめ登録してある顔写真と一致してはじめて試験が受けられる仕組みなら、替え玉受験やなりすましなどの不正受験のリスクを減らすことができます。ちなみに、CBT試験では、試験問題をランダムに出題したり、受験者ごとに異なる問題を出題したりすることができるため、これまでのペーパー試験に比べてカンニングのリスクはかなり低くなっています。
CBT試験は、基本的に自動採点です。そのため、マークシートなど選択肢から正解を選ぶ試験については、CBTへの切り替えが容易で向いています。計算問題のように答えが1つしかない問題、学習の成果や理解度を測定するアセスメントテストについても、CBTで実施が可能です。また、CBTは、大量受験を効率的に処理対応できるという利点があります。そのため、年間になんども試験をおこなうような検定や受験者が多い試験についても、CBT向きといえるでしょう。
CBTを導入している資格・検定は数多くありますが、ここでは企業や学校における活用事例も含めてご紹介します。
企業におけるCBT導入の代表的な例は新卒採用で用いられているCBTです。 「SPI」「玉手箱」「TG-WEB」の3種類があり、言語、非言語、適性検査、性格診断などが提供され三菱商事、伊藤忠商事、トヨタ、富士通など多くの企業で活用されています。
CBTを導入した社内試験の成功事例
特定の製薬会社では、MR向けの社内試験を100%オンライン化し、これにより大幅な時間とコストの削減を実現しました。この取り組みはLMSを活用したCBT試験の導入例であり、企業固有の要件に合ったCBT試験を実行することが可能です。
CBT導入前
CBT導入後
文部科学省は、小・中・高校の児童生徒を対象としたCBTシステムを開発しています。 令和2年度にはプロトタイプとして全国学力・学習状況調査問題などがデジタル化され搭載、これまで延べ約14万人(令和2年度3万人、令和3年度11万人)の児童生徒が活用しました。 今後はさらなる機能拡充の上、全国の学校での活用や各種学力調査でのCBT活用が見込まれています。
学校におけるCBT導入事例としてもう1つ具体的な例をご紹介します。
創価大学通信教育部ではコロナ禍にスクーリング・科目試験が中止に追い込まれたことをきっかけにCBT試験を導入。 「本人認証機能付き」CBT試験で、出席管理や不正受講の問題をクリアした高品質なオンライン試験を実現しています。
CBT導入前
CBT導入後
こちらもLMSを活用した効果的なCBT導入事例です。同大学では、今後もCBT試験を中心とし、経費削減、教員の負担削減につなげていきたいということです。
≫詳しくはこちら:https://www.digital-knowledge.co.jp/archives/23994/
英検や簿記検定など資格・検定試験を実施している数多くの団体でCBTが採用されています。 CBTのみで試験を実施しているところと、筆記試験とCBTを併用して実施している資格・検定があります。
ほんの一部のご紹介ですが、こうして見ると実に多くの資格・検定でCBTが活用されているのがわかりますね。
海外では中学生や高校生の学力を測る公式テストについても大規模なオンライン化が進んでいます。
その代表的なものがPISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度調査です。
3年おきに15歳から16歳の生徒を各国で抽出してアセスメントテストが行われています。
従来は筆記型の調査でしたが、2015年からは原則CBTへと移行しました。PISAのCBTでは、選択肢形式問題、プルダウンからの選択形式に加え、キーボードを使った解答入力形式などが取り入れられています。 また、TIMSS5と呼ばれる国際数学・理科教育動向調査においても、2019 年調査よりCBT が一部導入され、2023 年調査では完全移行することが予定されています。
そのほかアメリカの4,8,12年生等を対象とした全米学力調査(National Assessment of Education Progress:NAEP)、フランスの6年生を対象とした学生評価(L‘évaluation des acquis des élèves de sixième)、スウェーデンの3,6,9年生を対象とした義務教育における全国試験(Nationella prov igrundskolan)など、さまざまな学力調査がCBT形式で実施されており、CBTによる学力調査は国際的な標準となりつつあります。
CBT試験が普及した背景にはICT環境の進化があります。 パソコンやタブレット端末が普及し、大容量インターネット環境が整備されたことで、テストをオンライン化する下地が整い、国内でも少しずつCBTの導入が進んでいました。 しかしながら、世間一般にCBTが広まるようになったきっかけは、なんといってもコロナ禍で1つの場所に集まって一斉にペーパーテストを受ける従来の試験の実施が難しくなったことでしょう。
コロナ禍で数々の試験が延期や中止になった理由としては、緊急事態宣言の発令や感染拡大の中で密を避ける目的が第一でしたが、それ以外にも試験会場となる大学や公共施設が閉鎖されて使用できない、という事情もあったようです。 そのような混乱の中、実施可能な新しい試験方法としてCBTによるオンライン試験がクローズアップされ、導入する事業者・企業・学校が増えました。
それでは今後、CBT試験はどのようになっていくのでしょうか。
文部科学省は2020年5月より「全国的な学力調査のCBT化検討ワーキンググループ」を定期開催しています。CBTによる学力調査が国際標準となりつつある中、後れをとることなく、全国学力・学習状況調査のCBT 化に向けた取り組みが急ピッチで進められています。さらに、政府によるペーパーレス化の推進やSDGsをはじめとする環境問題への意識向上などの追い風を受け、従来の紙の筆記試験からCBT試験へ移行する機運はますます高まるでしょう。
もう1つ重要なのは、CBTが「受験者によって出題する問題をアダプティブに変えることができる」点です。 海外ではCBTのメリットを生かし、特別な支援が必要な学生に1人1人に合ったテスト形式が提供されていることは前述した通りですが、従来の「一斉型教育」から「学習の個別最適化」「一人一人に合った学びを」という近年の教育トレンドの中で、今後CBTは大きな存在感を示すものと考えられます。
デジタル・ナレッジのオンラインCBTソリューションはインターネット経由でどこでも模擬試験や資格試験、昇格試験、定期試験などを実施いただけるようにするためのソリューションです。お客様には試験問題のみご準備いただければ、そのほかの受験申込から申込情報の管理、試験の実施、試験の採点、集計、合否通知等を行うことができます。
筆記試験に代わる新しいテスト形式として注目されるCBT試験。
試験の全行程をコンピュータ上で実施可能なCBTは試験実施者にとっても受験者にとっても多くのメリットがあり、今後は資格・検定団体のみならず、企業や学校でもそれぞれの組織に合ったCBT試験の導入が広がっていくものと考えられます。
CBT試験の効果的な導入をお考えの方、現在の試験方式に課題をお持ちの企業や学校、教育事業者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。