リスキリングとは何か?
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リスキリングとは、“企業の従業員が成長分野の仕事へ就労移行するための学び直し”のことです。
学び直しといっても、すでに知っている知識を復習したりするのではなく、DXや第4次産業革命といった社会の急激な変化に対応するため、新しい知識やスキルを習得するという意味合いで使われます。
たとえば、
「営業スタッフがデータ分析を学んでインサイドセールスを行う」
「製造スタッフがAI活用スキルを身につけて業務効率化を図る」
といった具合に、今まで仕事で使っていたスキルとは別の、新しいスキルを獲得するところに重きが置かれているのです。
欧米では有名企業が先行して取り組んでいましたが、ここ数年、日本でも大企業を中心に導入が進んでいます。
リスキリングは、変化の激しい現代において、競争力を高めて成長を図りたい企業にとって欠かせないものといえます。
リスキリングと似た言葉に「リカレント教育」があります。
リカレント教育では、社会人がいったん職場を離れ、教育を受けた後に仕事に復帰してスキルを活かす、というサイクルが繰り返されます。基本的には仕事を辞めて大学などの教育機関で学び直すことが一般的です。
一方、リスキリングは「企業が事業戦略の一環として従業員にスキル獲得を促す」という性質があります。企業に在籍したまま、働きながら新たなスキルを習得します。
また、リカレント教育は個人が自らの意思に基づいて興味のある分野を学ぶのが特徴ですが、リスキリングにおいては、学び直しを主導するのはあくまでも企業です。従業員に対して今後必要と見込まれるスキル習得を促し、習得したスキルを社内で発揮してもらうことが前提となります。
リスキリングという言葉が初めて提唱されたのは、2018年の世界経済フォーラム年次会議(通称ダボス会議)です。さらに、2020年のダボス会議において、「第4次産業革命に伴う技術変化に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までに世界中の10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」と宣言されました。これが、いわゆる“リスキリング革命”とよばれるものです。
ダボス会議には、世界各国のリーダーや国際機関の高官たちが集結し、世界経済や環境など今後重視すべき問題が議論されます。地球の未来を考える場でアジェンダとして取り上げられ、こうした宣言まで出されたという事実は、リスキリングが重要かつ喫緊の世界共通課題であるということを示しており、その認識は世界中に急速にひろがっていきました。
リスキリングはDX化と密接な関係があります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術によって企業がビジネスモデルや企業文化そのものを変革し、競争上の優位を確立することを目的としています。この実現のためには高度なデジタル人材が必要不可欠ですが、急速なデジタル化に伴い、世界的にデジタル人材が不足しています。そこで、社内の人材をデジタル人材に育成する手法として「リスキリング」が注目されるようになりました。
リスキリングにより既存人材が必要なデジタル技術を習得できれば、DXを推進でき、グローバル社会における競争力強化につながります。このようにDX推進のための有効な手段としてリスキリングが注目され、多くの企業で導入が進められています。
新型コロナウイルスの流行はわたしたちの働き方に大きな変化をもたらしました。「オフィス出勤からリモートワークへ」「会議もすべてオンライン化」「顧客との商談もオンライン上で実施」など非対面業務が急増し、さらに、集合研修もオンラインに切り替えるなど、企業は思いもよらぬ形で労働環境の見直しや人材育成のアップデートを迫られました。
こうしたオンライン化への対応にはITスキルが必要不可欠です。また、コロナ禍は消費者のライフスタイルや行動パターンにまで影響を及ぼし、従来にはなかった新しいニーズが生まれています。こうした変化に適応し、新たな顧客価値を提供するためにも、リスキリングによるスキルアップの重要性が高まっています。
ここからは、実際にリスキリングを導入する際のステップを5段階にわけて見ていきましょう。
ここからは、効果的なリスキリングを実施するために気をつけたいポイントや注意点をご紹介します。
リスキリングの認知度はまだまだ低いため、なぜリスキリングが必要なのか、社内理解がすすんでいない場合もあります。リスキリング主導部署が経営陣も巻き込んだ形で啓発活動をおこなうなど、社内での認知度向上がカギとなります。リスキリングをおこなう意義やメリット、海外での先進事例等をていねいに説明し、社内に協力体制をつくることがリスキリング成功の第一歩です。
リスキリングの対象はIT技術者だけではありませんが、なかには「リスキリングは一部のデジタル人材向けで自分には関係ない」「DXによって自分の仕事がなくなる」など、リスキリングに後ろ向きな従業員がいるケースも見受けられます。とくに中小企業では、デジタル技術の導入や活用が遅れているケースが多く、DXによって業務のプロセスが激変することに不安や抵抗感が大きい傾向があります。前向きに取り組んでもらえるよう、リスキリングの意義や従業員側のメリットもしっかり説明し、従業員の当事者意識を醸成したうえで納得感をもって進めることが大切です。
リスキリングは継続していくことに意義があり、再教育を受ける従業員のモチベーションの維持が大きなポイントとなります。たとえば、リスキリングの過程において、上司や管理職が状況を把握して適宜フィードバックすることもモチベーション維持につながります。また、スキル習得後にインセンティブを付与したり、発表の場を設けるといった仕組みも効果的です。従業員のがんばりに会社がしっかりとコミットしているという姿勢がポイントです。
リスキリング先進国であるアメリカでリスキリングの取り組みがはじまったのは、2000~2010年代といわれています。当初は、失業者に対する再雇用のための学び直しといった意味合いが強く、投資先も大学などの教育機関に限られていました。
アメリカ企業では新しいスキルを持つ人材が必要になった際、そのスキルを持つ人を新規雇用し、今までいた人を解雇するのが一般的です。しかしながら、企業が求める高度スキル人材が巨大IT企業GAFAに流れてしまう傾向があり、IT分野以外の企業にとっては、思うように人材雇用ができなくなってきました。また、そもそも高度スキル人材の絶対数が少ないということもあり、企業は次第に、今いる従業員を教育してアップデートしていく方向にシフトしていきます。
こうしたなか、2017年に始まったトランプ政権下において1,600万人分にリスキング機会を提供することを宣言した「Pledge to America’s Workers」が発表されました。これは政府主導・企業巻き込み型のプロジェクトで、米国企業430社をはじめCanon、Samsung、トヨタなどの海外企業も多数参加しています。この時期を前後して、多くの企業がリスキリングに本格投資をしていきます。
リスキリング先進国のアメリカでとくに取り組みが進んでいるのがAT&T、Amazon、ウォルマートの3社です。
出典:リクルートワークス研究所 石原直子「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」P10 -11
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf
出典:リクルートワークス研究所 石原直子「リスキリングをめぐる内外の状況について」P9
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000940979.pdf (2023年1月31日参照)
AT&Tは、創業100年以上の老舗の電話会社です。2007年にiPhoneが発売開始されると、通信業界の主役が交代するのではないかという大きな危機感に見舞われました。翌年の2008年には「このままだと10万人の仕事がなくなる」と社内外に発表、2013年にはどこよりも早くリスキリングへの取り組みを開始します。もともとはハードウェアの技術が強い会社でしたが、スマホの浸透によってソフトウェア事業強化が必要不可欠ということで、大規模なリスキリングを実行、現在ではソフトウェアベースの動画配信事業でも大きな成功を収めている事例となります。
国内でリスキリングによるDX人材育成推進を主導しているのは経済産業省です。2021年2月より経済産業省が「デジタル時代の人材政策に関する検討会」を開始、具体的な政策検討をはじめました。
このように、日本でのリスキリング推進の取り組みは、まだ始まったばかりです。
一部の大手企業ではリスキリングの取り組みがスタートしていますが、海外に比べてリスキリングという言葉自体の認知度がまだまだ低い状態です。また、諸外国に比べて新しいテクノロジーの活用に自信がない点も課題です。
出典:PwC『デジタル環境変化に関する意識調査』2021
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/hopes-and-fears-jp2021.html
※全回答者32,500中、日本のサンプルは約2,000
2022年10月には、岸田総理が所信表明演説内でリスキリング支援について言及し、人への投資策を「5年で1兆円に拡充する」と明言しました。リスキリングに特化した国の支援策はこれから具体案が提示されていく見込みですが、政府、産業界、社会全体として早急なリスキリングの施策展開、リスキリングを促す仕組みが急がれます。
国内におけるリスキリングの事例をご紹介します。
出典:株式会社三井住友銀行/お客さまと共にDXを加速させていく。SMBCグループ全従業員対象のデジタル変革プログラム 「デジタルユニバーシティ」が目指すもの
https://www.smfg.co.jp/dx_link/dxtrend/dxinsight/article_33.html
出典:ヤフー株式会社/プレスリリース2021年7月15日
https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2021/07/15b/
参考:日本経済新聞「ヤフーが全社員にAIスキル教育、何を学ぶ?」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL21BE40R21C21A2000000/
出典:富士通プレスリリース2021年12月13日
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2021/12/13.html
出典:富士通株式会社『富士通の人材戦略について』
https://pr.fujitsu.com/jp/ir/library/presentation/pdf/20220328-02.pdf
リスキリングの実施にはeラーニングの活用がおすすめです。リスキリングは働きながら学習することが前提となりますので、従業員が業務にあわせ自分のペースで効率的に学べるeラーニングは最適です。上記でご紹介した先行事例において、eラーニングやオンライン学習環境が多く活用されているのもそうした理由からです。
また、企業が従業員にスキル習得を促す性質のあるリスキリングでは、企業が従業員の学習進捗を把握しておく必要があります。eラーニングに使われるLMS(Learning Management System:学習管理システム)なら、従業員1人1人の学習進捗や理解度、獲得スキルを可視化できるため、それに基づいた適切なフォローやフィードバックを通じて、効果的なリスキリングを実現することが可能です。
デジタル・ナレッジのLMS『KnowledgeDeliver』は、導入実績3000以上をほこる国内有数の統合型eラーニングプラットフォーム。常に機能拡張をおこない、新しい学習環境に対応しつづけると共に、カスタマイズ開発に強みをもち、お客様が目指されるリスキリングやDX推進の実現を力強くサポートします。
eラーニングを活用したリスキリングの実施を検討されている方、自社にあったより効果的な導入をお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
今後、DX⼈材の確保はますます困難になると予想されます。そのため、大手企業だけでなく、中小企業にとってもリスキリングが当たり前になる時代がやってくるのは確実です。
リスキングに積極的に取り組む企業には、能力や意欲がある人材が集まる傾向が見られます。この機会に自社の課題を洗い出し、既存の人材を最大限に活かせるリスキリングの導入をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
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