あらゆる分野で急速に進むAI導入。AIは着実に私たちの生活に浸透し、これまで得られなかった体験をもたらしています。メディアでは AI の導入事例が数多く紹介されていますが、教育現場もまた例外ではありません。ここでは『教育 × AI』のインパクトと、今後の展望をご紹介します。
「AIによって消失する職業ランキング」なる雑誌特集が組まれるなど、センセーショナルな煽られ方をすることも多いAIですが、2017年に発表された厚生労働省委託の報告書によると、AIは既存従業員の業務を全て代替するものではなく、一部代替ないし人間の仕事を支援するものと考える企業が大半を占めています。多くの企業でAIは企業経営上プラスになると期待されているようです。
参考:いずれの産業・企業・部門も遅かれ早かれAIの影響を受けることは確実。企業はスピード感をもって、AI等の導入・活用を担う人材の育成と能力開発に取り組む必要がある。
(厚生労働省委託 平成28年度 今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業『IoT・ビッグデータ・AI 等が雇用・労働に与える影響に関する研究会報告書』)
現在のAIは知性をもち、自律的な思考やゼロからの創造を行なっているわけではありません。
例えば、2012年にgoogleが「AIが自発的に猫を認識することに成功した」と発表し、大きな話題となりました。無作為に抽出された1000万枚の画像をAIが学習しているうちに、AIが画像内の特徴を認識し、分類し、「猫の画像を見分けられる」ようになった、というニュースです。
このように、実はAIは膨大なデータから特徴量を抽出して、適切に「分類」することでルールを導き出しています。
分類には、主に4つの領域があります。
例えば、車の自動運転であれば、カメラによる画像認識やレーザーによる測距などから得られた情報に、車両の運行情報・地図情報・位置情報などの情報をプラスし、車が置かれた状況を識別します。その上で、衝突など起こりうる可能性を予測し、最適な安全運転や目的地に到達するための最短ルートを計画して実行します。
このように、世の中のAIサービスはAIの機能のいずれか、または複合的な組み合わせによって成立しています。
AIとは「Artificial Intelligence(アーティフィシャル インテリジェンス)」の略で、日本語では人工知能と訳されます。
2000年以降、ビッグデータと呼ばれる大量のデータを高性能のコンピュータが処理することでAI自身が知識を獲得する「機械学習」が実用化され、さらに人間が手を加えなくてもAI自らが大量のデータからそのデータの特徴を発見できる「ディープラーニング」の登場で、AI技術は目覚ましい進化を遂げました。
AIはすでに私たちの生活のいたるところに浸透し始めています。スマートスピーカーや掃除ロボット、車の自動運転などにAI技術が活用されているのはご存じの通りです。最近のスマホカメラでは、AIを用いてノイズを除去したり写真を自然に明るくしたりする加工が行われています。今後は医療や介護、農業の分野でもAIの活用が期待されています。 今や社会のデジタルトランスフォーメーションを推し進めるうえで欠かせない技術のひとつであるAIは、今後ますますその存在感を増していくでしょう。
こうしたAIを教育に適用すると、どのようなことが起こるのでしょうか。
これまでの授業は、一人の先生が大人数の生徒や子供を教えていました。
テストも、あらかじめ用意された画一的な問題のセットに取り組むのが一般的でした。
ですが、生徒によって理解度も弱点も違います。
どの問題を間違えたのか?解答にかかった時間は?これまでの学習履歴は?成績は?
AIならこうしたデータを分析し、生徒に合わせて出題を変えたり、生徒が間違えた問題を再出題したり、授業内容や学習する順番をアレンジするなど、生徒・子供一人ひとりに最適化された学び方を提示してくれます。
学びの個別最適化の重要性については、経済産業省が取り組む有識者会議「未来の教室」とEdTech研究会による第2次提言 (2019年6月発表)でも言及されています。
AIやデータの力を借りて、一人ひとりに適した多様な学習方法を見出し、従来の一律・一斉・一方向型の授業から、EdTechを用いた自学自習と学び合いへと学び方の重心を移すべき。
(経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会の第2次提言「未来の教室」ビジョン)
AIがさながらベテランの個人家庭教師、あるいは教育コンシェルジュの如く、学習者毎に効率化された学びを提示するこの機能は「アダプティブラーニング(適応型学習)」とよばれます。学習の個別最適化は、学習効率を向上させ、学びの生産性を最大化させるだけでなく、合格者や成績優秀者の行動特性から合格や成績に結び付く要素を分析・抽出し、他の学習者への指導に活用するなど、今後さらなる進化が期待される分野です。
特殊なスキルを有した先生だけが実施できる教育があります。例えば、語学教育です。
語学の4技能(聞く・読む・話す・書く)のうち、聞く・読むというインプットは比較的やりやすいのですが、話す・書くといったアウトプット型の学習には、正しい発音を教えたり、学習者の発音を聞き取って補完したり、文章の意味が適切かどうかを判断するといった、より高度なスキルが必要となります。そのため、一部の先生にしか実施できませんでした。
ここにAIを導入することで、話す・書くといったアウトプット型指導を自動化することができます。AIの音声認識を活用すれば、AIが人間の話す言葉を聞き取り、発音の正確さや文章が適切かを判断してくれます。AIなら学校や地域といた格差、先生不足などに左右されることなく、誰もが高いレベルの教育を享受できるようになります。
AIによる英語発話診断、英作文の文法判定、入力したテキストの読み上げなど様々な機能を持っており、先生はこれらの機能を組み合わせて教材を簡単に作成し、英語の4技能指導に使うことができる。また、生徒にとっては英語学習のパートナーとなり、先生がいなくても発話トレーニングなどを行える。日本人にありがちな「間違えると恥ずかしい」という外国語学習への障害も、AI相手ならクリアできる。
学習内容によっては手書きによる記述式解答が求められることがあります。
こうした手書き答案の採点は、答案の内容を理解し、それが正解かどうかを判断する必要があります。部分点が必要とされる場合は、採点基準に照らし合わせ、一つひとつ判断・採点していかなければなりません。こうした作業は思った以上に大変で、先生にとって大きな負担となっています。
採点の自動化は以前から OCR として確立していた領域ですが、昨今のAI の文字認識技術の目まぐるしい進化でその精度が上がり、数字や英文では実用域に入りつつあります。手書きの答案を即時に採点してくれるオンライン教育サービスも登場しています。
教育業界では2020年に学習指導要領の改訂が予定されており、記述式答案がますます増えることが予想されます。採点の自動化は、採点業務の効率化や教育サービスのレベル向上だけでなく、先生の負担を軽減し、より本質的な教育へ時間やリソースを割くことができるという効果も期待されています。
AIの画像認識技術の進化で、生徒や子供の表情などから集中度や理解度が測定できるようになってきています。
教室にあるカメラで生徒の様子をモニタリングして「理解できていない生徒が多いようだ」「居眠りをしている」と先生に知らせます。
先生はそれを受けてリアルタイムに指導方法を変更したり、休憩を促すなど授業改善に役立てることができます。さらに、集中度が増すタイミング、逆に集中が途切れるタイミングを知ることで教材評価データとしても活用できます。
従来、授業や教材の満足度は、先生の感触や生徒へのアンケートでしか測ることができませんでした。今後はこうしたAIの分析データを活用することで、属人的なカンや経験といった人依存ではない客観的事実に基づく授業改善や教材評価が可能となります。ベテランの先生は学習者の反応を見ながら効果的な授業を展開しますが、AIがこうしたベテラン先生の持つコツを自動化できるようになるかもしれません。
AIはコンピュータが自動で処理を行うため、指導する数や量に限界がありません。
いつでもサービスを提供することができます。
多くの場合、人間が稼働するより低コストで提供することができるでしょう。
こうしたさまざまAI関連技術を使って、海外ではすでに多くの事例が生まれています。
イギリスの1,200 校を超える小学校で行なわれているオンラインレッスン(遠隔授業)。 授業自体は人間の教師が行っていますが、AIが学習進捗をリアルタイムにモニターすることで、学習が滞った時や子供が興味を失った時などに教師にアラートを出しています。
アメリカ メンフィス大学では、AIによる進路アドバイスが行われています。学生の成績や履修状況から、今後どの科目を履修すべきかAIが提案してくれると共に、その成績予測までAIが実施します。卒業後の職業適性なども提示してくれます。
アメリカ カリフォルニア大学バークレー校では、教員によるテストの採点をAIが支援しています。AIによる自動採点システムが、テストの解答をいくつかのパターンにカテゴリ分けすることで、同じカテゴリの解答には一律の部分点を付与し、同じコメントを返します。
教育分野におけるAI導入には以下のようなデメリットがあります
ここまで見てきたように、教育にAIを適用することで次のようなメリットが期待できます。
ほかにも、昨今主流となりつつある映像教材のテロップ(字幕)をAIが自動作成したり、撮影した講義動画から適切な映像教材を自動作成してくれるなど、AI活用のメリットとインパクトは教育のあらゆる領域へと広がりを見せています。
一方で、デメリットとしては、「AIは人間から仕事を奪う」という意見もあります。
これまでベテランの先生が行なっていた教育活動の大部分をAIが代替することで、教育現場から人間の先生が姿を消してしまうのではないかという懸念です。
ですが、人間の先生の役割がなくなることはありません。
知識がコンテンツ化され、指導ノウハウさえもAIで自動化された世界……その中で先生は、AIやコンピュータでは成し得ない価値を創造し、実践することが求められます。具体的には、学習者一人ひとりと話し合い、適切なゴール設定を助け、モチベーションを引き出し、カウンセリングやアドバイスを通じて子供たちと併走していくことが必要です。一斉に教える「ティーチャー」としての役割をテクノロジが担う時代になったからこそ、一人ひとりが輝き学べる環境を整える「ファシリテーター」や「メンター」「コーチング」の機能が、人間の先生が果たす役割としてますます重要になってくるのではないでしょうか。
「教育 × AI」の進化は、効率的かつ効果的に学習者を導き、学びの生産性を最大化するという果てなきゴールを追求しているように思えます。
その先には一体なにがあるのでしょうか。
折りしも、2020年度からの大学入試改革において、これまで問われていた「知識・技能」に加え、「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」が評価の対象となります。
テクノロジで教科知識のインプットを効率化できれば、その分、個々の自然な興味関心から生まれる知の探究や、他者とコミュニケーションを図りながら協働して課題を発見し解決する取り組み、得た知識と自らの体験を横断的に組み合わせ新たな知を創造するための活動などへと充てることができるようになります。それは、一人ひとりの特性や才能がのびやかに育まれ、個性や違いや障害を尊重し合う世界にほかなりません。
今後、AIはますます発展することでしょう。
ここで紹介した事例や機能がさらに進化し、現在では想像もできないような展開が待ち受けているかもしれません。
戦後の工業社会・大衆消費社会を経て、日本を取り巻く環境が大きく変化した現代、それに適した教育の在り方が今、問われています。
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